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トヨタがエヌビディア提携でSDVの中核技術を確保 津田建二
米エヌビディアのジェンスン・フアンCEO(最高経営責任者)が1月6日、米ラスベガスで開催された世界最大の技術見本市「CES2025」の基調講演で、トヨタ自動車と次世代クルマ作りで提携したと発表した。エヌビディアはすでにAI(人工知能)を使った自動運転技術を多数の自動車会社に提供している。
エヌビディアは自動運転に必要な学習データを豊富に持っており、さらに推論用のAIチップもある。自動運転ではAIが前方のクルマを乗用車かトラックか、あるいは人か自転車かなどを見分けるが、予測も必要となる。さらに「DRIVE OS」と呼ぶ車載コンピューティングの基本ソフトウエアも有しており、すでに国際品質認証団体から認定を受けている。
エヌビディアは車載用AIチップ「Orin(オーリン)」を販売しており、フアン氏はCESの講演で、このOrinは現在の自動運転車の標準となるほど多くのクルマに搭載されていると述べている。エヌビディアは、Orinの20倍の性能を持つ次世代チップ「Thor(ソー)」を開発し、今回のCESで披露した。Thorは自律運転の頭脳として働く車内コンピューターの中核頭脳となる。
OrinかThorか
トヨタとの共同開発のチップが従来のOrinを改良するのか、それとも次世代チップThorを使うのか、フアン氏は明言しなかったが、トヨタがどちらかを選ぶことになる。まったく新しい完全カスタムなチップなら、エヌビディアは作るつもりはないからだ。
エヌビディアは、車載用のAI技術としてハードウエア(半導体チップ)からソフトウエアまでクルマに必要なAI技術をすべて持っている。トヨタとしては、今後のトヨタ車に必要な自動運転車を作るのに最も手っ取り早い提携先がエヌビディアである。
トヨタの豊田章男会長は「これからのクルマはSDV(ソフトウエアで定義されるクルマ)になる」と、将来に向けたクルマ作りに意欲を見せている。自動車は15年間作動するという長期信頼性を確保したハードウエアである。しかし、新機能を追加できなければ古い機能のままになる。そこで、新機能の追加や更新をソフトウエアで行う概念がSDVである。SDVはコンピューターそのものであり、AIを取り入れれば自動運転の実現につながる。
エヌビディアは半導体チップの設計だけではなく、コンピューター全体も設計できる能力を持つ。すでにコンピュータープラットフォーム「DGX」で多くのAIを学習させてきた実績もある。トヨタは将来のSDVに欠かせない技術をエヌビディアに期待している。
(津田建二・国際技術ジャーナリスト)
週刊エコノミスト2025年1月28日号掲載
FOCUS トヨタ・エヌビディア提携 次世代SDVに必要な車載用AI技術を確保=津田建二