教養・歴史目利きの本棚

本、という薔薇 本、という時限爆弾=渡部朝香

 出版社での会社員生活も、20年以上になってしまった。入社時に配属された営業部では、帳簿の記入の仕方などを習った。手書きだ。それに比べて今はなんて進化したのだろう。……進化? ラクになっている気がしない。世の中、誰もが忙しく、余裕がなくなっているようで。

 そんな体感に説明を与えてくれたのが、『負債論』でも知られる人類学者、デヴィッド・グレーバーの『官僚制のユートピア』だ(昨年末の新刊ながら、今年はじめに読んだので紹介したい)。空飛ぶ自動車なんて実現していない、あのころの未来の今。資料づくりやら評価やら、労働時間は増えるばかり。創造性を高めるべしといいながら、実現を阻む大量のドキュメント。コンピューターは私たちを幸せにしたのだろうか。

 いや、「情報テクノロジーが可能にした資本の金融化は、労働者をさらに負債の泥沼にひきずりこんできた」のだ。ひと握りの人々のための富を生み出すしくみによって、大多数の人々の奴隷化が進む。では、どうしたらいいのか。グレーバーは、ファンタジーの中に、蔓延(まんえん)する官僚制の暴力を逃れる思想を読み解く。私たちを蝕(むしば)むものに目を向けさせ、こうではない世界への想像力を奮起させる重要な一冊。

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