輸送人員と投資は過去最高 訪日・再開発で人口減に勝つ=米江貴史 攻める私鉄
少子高齢化に伴い、人口減少が続く日本。人口の増減の影響を受けやすい鉄道業界は厳しいとされ、特に人口流出の激しい地方では廃線の危機にさらされる路線も出ている。
一方で、首都圏や関西圏などの大手私鉄16社の2017年度輸送人員(旅客数)は103億8600万人となり、2年連続で過去最高を更新した。バブル崩壊後に減少が続いたが、04年に底を打った後は増加が続いており、業界団体の日本民営鉄道協会(民鉄協)によると、景気回復に伴う雇用情勢の改善や、定年延長などによる高齢者の雇用増加、訪日外国人客(インバウンド)の増加などが押し上げているという。人口流入が続く首都圏では特に顕著だ(図1)。 特集:攻める私鉄
設備投資5069億円
輸送人員増に合わせるように設備投資額も大きく伸びている。大手私鉄16社の2018年度の設備投資額は、5069億円と2年連続で過去最高を更新する見通しだ。耐震補強など保安工事への投資が最も多く、高齢化に対処するバリアフリー化工事が続いているほか、最近では通勤客を対象とした有料の座席指定列車を新造する動きも相次いでいる。
輸送人員の好調さは決算にも表れている。旅客収入は、東京急行や阪急のような通勤客主体か、京成や京浜急行のようなインバウンド主体かなどによって構成は異なるが、ほぼ全社で伸びている(図2)。そこから大手私鉄の経営のトレンドが見えてくる。
増え続けるインバウンドは重要な収益源だ。観光地や空港への輸送で旅客収入だけでなく、京王や小田急などは、新宿などで展開するデパートの免税売り上げが、年間3~4割の伸びを見せている。
一方、外的要因に左右されない固定層への戦略は変わりつつある。
かつての私鉄経営は、沿線で住宅を開発して通勤客を確保し、ターミナルにはデパートを作って人を呼び込む──というのが一つのモデルだった。だが民鉄協などによると、最近は子育ての環境の整備など「暮らしやすさ」の創出を重視したり、ベンチャー企業支援の仕組みを作ったりして、沿線の魅力向上がキーワードとなっている。
「運ぶ・住まわせる」と量を求めた時代から、「快適さ・楽しさ」と沿線の質の向上を追求し始めた現代。平成が終わろうとする中、私鉄の攻め方は変わってきている。
(米江貴史・編集部)