永江朗の出版業界事情 誕生から80年。新書のしぶとい魅力
有料記事
2018年は新書が誕生して80年である。1938年11月20日、岩波書店が岩波新書を創刊した。いまや新書は日本人の読書にとって欠かせないものになっている。ベストセラーも多い。
「新書」というネーミングは、その11年前に創刊され成功していた岩波文庫を意識してのもの。文庫が評価の定まった古典的な作品を収録した叢書(そうしょ)であるのに対して、新書は当時の現代人が必要とする「新しい」教養の提供を目指した。1冊8万字程度の簡潔な文章で、背広のポケットにも入る造本、50銭という定価は画期的だった。
岩波文庫は、いまも巻末にある岩波茂雄のマニフェスト「読書子に寄す」を読むとわかるように、当時の出版界を席巻していた円本ブームに対する怒りから生まれた。一方、岩波新書は日中戦争開始以降の社会への危機感から生まれた。岩波茂雄の「岩波新書を刊行するに際して」は、軍部に対して用心深く言葉を選びながら、侵略戦争への批判をにじませたものだった。
残り470文字(全文884文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める