経済・企業

「世界2位」連合に瓦解の恐れ ブランド失墜で販売低迷も=岡田英/大堀達也

 日産自動車、仏ルノー、三菱自動車工業の3社を率いてきたカルロス・ゴーン会長が11月19日、東京地検特捜部に金融商品取引法違反容疑で逮捕された。日産は22日に開く臨時取締役会でゴーン会長を解任する予定で、日産のV字回復を牽引(けんいん)してきたトップの衝撃的な退場は、世界2位の販売台数を誇る巨大自動車グループの瓦解(がかい)につながる恐れもある。緊急特集「ゴーン会長逮捕」

「あくまで重大な不正の除去が本質で、ルノー・日産・三菱自のパートナーシップになんら影響は及ぼさない。むしろ緊密に連携して混乱を収拾して、各社の事業運営、アライアンス(連合)の活動に影響が出ないようにすることが大事だ」──。19日深夜、記者会見した日産の西川(さいかわ)広人社長はこう強調した。

 しかし、日産のゴーン会長は、ルノー、三菱自でも会長を務め、さらにルノーと日産が折半出資する「ルノー・日産BV」でも会長を務める。ルノー・日産BVは両社の中長期の経営方針などを決定する事実上のグループの統括会社で、ゴーン氏の突然の退場は3社連合に及ぼす影響は小さくないはずはない。

 次世代自動車産業の動向に詳しい立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「3社連合はゴーン氏の求心力だけでつながっていた」と指摘。「日産にはルノーの支配から逃れたいという意識が働いたのではないか」と推測する。

ルノーの子会社に?

 そもそも、ルノー・日産提携は1999年、巨額の有利子負債を抱えて経営に行き詰まった日産に、ルノーが36.8%(現在は43.7%)を出資したことに始まる。2002年には日産がルノー株15%を取得し、株式を持ち合う提携関係に。16年には日産が、燃費不正問題で経営危機に陥った三菱自の34%の株式を持ち、3社連合になった。

 この核となったのがゴーン氏だ。ゴーン氏はルノー上席副社長から99年6月、日産の最高執行責任者(COO)に就任。01年6月には社長兼最高経営責任者(CEO)となった。また、05年5月にはルノー社長兼CEOとなり、三菱自では16年12月に会長に。3社は相互に自立した経営をしながらも、「あまりにも1人に権限が集中」(西川社長)した体制ができあがった。

 一方で、ゴーン氏の退場により、ルノーによる日産への経営関与が強まるとの見方もある。すでに、ルノーに15%出資する仏政府が国内の雇用維持を狙い、ルノーと日産の経営統合を求めているとの観測が浮上しており、今年6月の株主総会で株主からただされたゴーン氏は「日産と三菱自がルノーの完全子会社になる可能性はゼロだ」と火消しに追われた。

 だが、遠藤功治・SBI証券企業調査部長は「ゴーン氏がいなくなれば、仏政府がルノーへの影響力を強め、ルノーから日産への出資比率を43%から50%以上に引き上げて完全子会社にする可能性もある」と指摘する。

“いい加減”な経営

 17年の3社の販売台数は1060万台を超え、独フォルクスワーゲンに次ぐ2位に躍り出たが、日産自体の業績は芳しくない。18年9月中間連結決算では最終利益が前年同期比10.9%減の2462億円。トヨタ自動車、ホンダ、スズキは過去最高の売上高を記録し、2ケタの増益となる中、苦戦を強いられていた。

 そんな中で今回の事件が日産に与える影響は計り知れない。遠藤氏は「不正は過去数年にわたっており、組織として機能していなかったと言わざるを得ない。日産ブランドにとって大きなマイナスで、もともと弱かった日本の国内販売がさらに低迷するだろう」と当面落ち込みが続くとの見方を示す。

 自動車評論家の松下宏氏は、「もっと早い段階で自浄作用が働かなかったのは、社員が出世のためにゴーン氏の顔色をうかがっていたからだ」と手厳しい。「今年、国内では新モデルが1台も出ていない。米国と中国向けの車種をついでに日本で売っているような“いい加減”な経営を改めない限り、日産の復活は遠い」と松下氏は語った。

(岡田英/大堀達也・編集部)

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