李白や杜甫より柔らかい もう一人の詩人の存在=加藤徹
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12世紀の東アジアは、文と武、中心と周辺の力関係が逆転した、激動の世紀だった。日本は平安時代が終わり、鎌倉時代になった。中国では、漢民族の北宋が北方民族の金に滅ぼされた。残存勢力である南宋は、中国の南半分だけになった。
三野豊浩著『范成大詩選』(幻冬舎ルネッサンス新社、1000円)は、南宋の漢詩人・范成大(1126~93年)の、日本初の訳詩集である。
范成大は北宋滅亡の前年、蘇州で生まれた。もし彼が唐の時代に生まれていたら、李白や杜甫と並ぶ人気を日本でも得ていたろう。しかし時代が悪かった。科挙の試験に合格した范成大は、高級官僚となり、各地の地方長官を歴任。庶民によりそった善政を行った。勤勉で有能だった彼は、南宋の臨時の使者として金に赴いたり、短期間ながら副宰相の参知政事(唐から明の時代まで存在した官職名)もつとめたこともある。だが生来病弱であ…
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週刊エコノミスト
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