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合成ゴムと透明樹脂で独自技術 田中公章=日本ゼオン社長 編集長インタビュー/941

    田中公章 日本ゼオン社長
    田中公章 日本ゼオン社長

    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ── 主力事業は?

    田中 石油由来の合成ゴムを中心とした「エラストマー素材」と、高機能樹脂や電子部品材料などの「高機能材料」です。合成ゴムは、一般ゴムと、熱や油への耐性がある特殊ゴムに分かれます。当社は一般ゴムも製造していますが、特殊ゴムを得意としています。

    ── 特殊ゴムはどんな製品に使われますか。

    田中 自動車のエンジン回りのホースやベルトなどの材料として使われ、部材メーカーに出荷します。ガソリン車のエンジン周囲は高温になり、時には油にも触れます。過酷な状況にも耐えられる材料が必要とされます。自動車はハイブリッド車や電気自動車の占める割合が大きくなっており、将来的には特殊ゴムの需要は減少する可能性がありますが、2030年まではインドや東南アジアを中心にガソリン車製造は伸びると考えています。自動車以外では、最近はシェールガス採掘のためのリグ(掘削機)の部品パッキン用としても使われます。

    ── では、一般ゴムはどのような製品に?

    田中 主にタイヤ原料に使われます。特に、今後も成長が見込まれる低燃費タイヤの原料として、「S─SBR(エスエスビーアール)(溶液重合スチレンブタジエンゴム)」に注力しています。タイヤの性能は三つの要素で決まります。濡れても路面をつかんで止まれるかというグリップ性、摩耗に強いか、そして低燃費性、です。従来の一般ゴムでは、この三つの要素のどれかを良くすると、どれかが悪くなるトレードオフの関係にありました。たとえば、安全性を高めようとグリップ性を高めれば、路面への抵抗も高まり低燃費性を損ないます。この三つの要素を全て向上させるのがS─SBRです。世界市場では、当社を含めて主に5社がS─SBRを手がけており、各社が異なる技術的アプローチでこの3要素を向上させています。

    ── 技術が勝負ですね。

    田中 5社の一角である住友化学と当社はS─SBRの事業を統合し合弁会社を設立、17年4月に営業を開始しました。両社の異なる技術で相互補完すれば、より強みのある製品を作れるという狙いです。出資比率は当社6割、住友化学4割です。

    画面フィルム好調

    ── 高機能材料はどのような事業を。

    田中 現在もっとも重点的に投資しているのは、ディスプレー用の光学フィルム「ゼオノアフィルム」です。当社で独自開発したプラスチック「COP樹脂」を、熱で溶かし、フィルム状に加工したものです。COP樹脂は水分を吸わず、不純物が少なく、透明性が高いという性質を有しています。したがって加工品であるフィルムも同様の性質を持っています。

    ── どのような製品で強みを発揮しますか。

    田中 スマートフォンやテレビのディスプレーで需要がありますが、特に55インチ以上の大型テレビの引き合いが強いです。一般的に、フィルムは水や熱によってたわみが出ます。しかし、ゼオノアフィルムは水分を吸わず、熱にも強いのでたわみが小さいです。また、不純物が少ないために、均一な品質のフィルムができます。たわみの小ささとあいまって鮮明な画像を表現できます。このフィルムを多方向に延ばすことで光の角度を調整する独自技術も有しており、画面を斜めや横から見ても画像がきれいに見えます。

    ── 電池部材も好調ですね。

    田中 リチウムイオン電池材料のバインダーは、世界トップシェアだと推計しています。バインダーとはリチウムイオンが活発に動くように添加する化学物質です。正極材や負極材にバインダーを添加することで、電池を繰り返し使っても活力が落ちず、耐久性が高くなります。当社のバインダーは不純物が少なく、発火リスクも低くなります。

    営業利益率は10%超

    ── 18年3月期売上高は過去最高の3326億円でした。ただ、11年に策定した中期経営計画では「20年に売上高5000億円」を掲げています。乖離(かいり)があるのでは。

    田中 その目標を掲げた11年当時、社内に「風土を変えて、予測し得ないようなテンポで成長を遂げる会社になろう」という意識がありました。当時の売上高は約2500億円でした。予測し得ないテンポとは、1~2割の売り上げ増ではなく、倍単位ではないか。そのような意識で設定した数字です。確かに達成見込みは厳しいですが、会社の体質を変えるという意識の表れとして掲げた数字です。その視点で見ると、「まずやってみよう」という気概が社員同士で伝播(でんぱ)し、徐々に変わっています。

    ── 営業利益率は10%超です。他化学メーカーに比べて高いのでは。

    田中 当社には「人のまねのできない、人のまねをしない研究開発を」という伝統があります。石油からはエチレンやプロピレンもできます。これらの材料は用途も多く、多くの企業が参入しました。一方、同じ石油由来でも、合成ゴム原料のブタジエン抽出などでは、参入が少なく、かつ当社には独自技術もあります。ニッチな領域を独創的な技術で攻めて、当社でしか作れないものを提供しているので営業利益率に表れるのでしょう。

    (構成=種市房子・編集部)

    横顔

    Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

    A 半導体メーカーを中心に営業回りで、月2回のペースで海外に出張していました。技術を正確に伝えるために英語を懸命に学びました。

    Q 「私を変えた本」は

    A 城山三郎『落日燃ゆ』。高校の書道の担当教師であり、大学時代の下宿先である恩師に勧められた本です。トップとしての責任の取り方を考えさせられます。

    Q 休日の過ごし方

    A 散歩で1万歩あるき、ゴルフの打ちっ放しに行きます。


     ■人物略歴

    たなか・きみあき

     1953年生まれ。東京都立江戸川高校、東京工業大学工学部卒業、同大大学院理工学研究科修了、79年日本ゼオン入社。合成香料や電子部品材料畑を歩み、2005年取締役。取締役専務執行役員を経て13年6月から現職。東京都出身、65歳。


    事業内容:合成ゴムを中心とした化学メーカー

    本社所在地:東京都千代田区

    設立:1950年4月

    資本金:242億1100万円(2018年3月現在)

    従業員数:3328人(同)

    業績(18年3月期)

    売上高:3326億8200万円

    営業利益:388億8100万円

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