テクノロジーエコノミストリポート

中国・高性能ドローンの脅威 日本の国土が丸裸にされる日=山崎文明

    中国メーカーDJIの新型ドローン「マビック2」(Bloomberg)
    中国メーカーDJIの新型ドローン「マビック2」(Bloomberg)

     多数の無人飛行機「ドローン」が世界中の空を飛び回っている。近年、急速に性能が向上しているドローンは、美しい空撮映像だけでなく測量や災害救助にまでその応用範囲を広げているが、その高性能に対して国家安全保障の観点から懸念の声が出ている。

     理由は、位置情報を伴った高解像度の空撮画像を撮影できるドローンの能力にある。こうした情報はドローンが国の“詳細な空間地理情報”を簡単に取得できることを意味し、そうした情報には国のインフラ施設や防衛関連施設などの画像も含まれる。

     こうしたなか、ドローンの市場シェアの約8割を握る中国に対して、中国と水面下で熾烈(しれつ)なサイバー戦争を繰り広げている米国では、「中国製ドローンを規制すべきだ」との報告書も出ている。しかし、日本をはじめ多くの国では、安全保障の問題は置き去りにされている状況だ。

    中国支配のドローン市場

     ドローン市場を席巻する中国で、トップメーカーとして君臨するのが世界シェアの7割以上を占めるDJIテクノロジーズ(本社:広東省深セン市)だ。日本でもすでに市販されており、例えば、2015年に、民間人が操縦して首相官邸に墜落したドローンや、この事件を受けて警視庁が発足させた「ドローン捕獲部隊」のドローンもDJI製だ。

     DJIが18年秋に発表した産業用ドローンの最新機種「マビック2 エンタープライズ」は、高度制御技術を搭載し、消火活動などの緊急事態への対応やインフラ設備の調査などでの活用をうたっている。

     マビック2は8個の高解像度ビジョンセンサーと2個の赤外線センサーを搭載し、障害物を自動で検知、回避して飛行できる。最大飛行時間は約31分、最大速度は時速72キロで、マイナス10度Cの低温環境でも十分な性能を発揮できるとしている。さらに撮影した映像は、DJIの「動画・データ伝送システム」を使うことで、最大で約8キロ(日本国内5キロ)離れた場所からも操縦者の元に送ることが可能という。価格は最も安いモデルで30万円程度からとなっており、同程度の性能で数百万円かかる他メーカーの産業用ドローンと比べると格段に安い。

    DJI製ドローンは産業用として世界の至る所で使われている(ニューヨーク市)(Bloomberg)
    DJI製ドローンは産業用として世界の至る所で使われている(ニューヨーク市)(Bloomberg)

     DJIの高い技術力は同社が取得した特許数からも分かる。特許分析会社のパテント・リザルト(東京都文京区)が公表した無人飛行機を含むドローン関連技術全般における特許の質と量から見た総合ランキングでは、DJIが1位となった。

     11年から日本でドローン関連特許の出願を開始したDJIは14、15年に出願数を大きく伸ばした。例えば、ドローンを使った荷物配送システムや、初心者でも簡単に操縦できるように離陸時の不安定性を減らす技術などで特許を取得している。

    米軍は使用を厳しく制限

     問題は、DJI機が空撮したデータの取り扱いである。データは、ユーザーのパソコンなどに移されると同時に、中国にあるDJIのデータセンターにも蓄積されることになる。DJI機を購入したユーザーは、こうしたDJI機の仕様に同意しなければ、使用許諾を得ることができない仕組みになっている。

     ドローンの空撮データには、GPS(全地球測位システム)の信号とともに緯度・経度・高度の画像情報が記録される。日本全国で橋梁(きょうりょう)の保守や工場の安全点検、農薬散布など種々雑多な空撮が行われているが、一つ一つは点でしかないかもしれないが、すべてのデータが手に入るとすれば、それは、日本の低空域における「航路情報」になり得る。低空域における航路情報は、ドローンの無線操縦に頼らない「自律航行」を可能とする。

    いまの産業用ドローンの空撮性能は高い。港湾の全景(上)から細部(下)まで鮮明に撮影(Bloomberg)
    いまの産業用ドローンの空撮性能は高い。港湾の全景(上)から細部(下)まで鮮明に撮影(Bloomberg)

     世界的にドローン規制が未整備な現在は、法の網の目をくぐり抜けた「偵察行為」が可能な状態にあると言える。放置すれば、日本の国土は“丸裸”にされるだろう。

     このようなDJI機の仕様について、17年ごろに最初に問題視したのが米軍だった。それまでは米軍も高性能なDJI機は軍事利用可能と見て多数導入していた。ところが、17年8月2日、陸海両軍がそろってDJI機に関する報告書を出した。

     陸軍研究所は「DJI無人航空機システムの脅威およびユーザーの脆弱(ぜいじゃく)性」、海軍は「DJI製品群に関する運営リスク」という報告書を出し、DJI機の使用を禁止した。いずれも「(DJI機の)すべての使用を停止し、(コンピューターから)すべてのDJIアプリケーションをアンインストールし、バッテリーとストレージを取り外せ」とかなり厳しい調子で指示する内容の報告書だった。

     米軍は、この報告から9日後の8月11日、今度は「OPSEC(オプセク)の規定する条件を満たしているドローンは利用可能」と、先の使用禁止命令を緩和するような指令を出した。オプセクとは「オペレーション・セキュリティー」の略語で、ネットに常時接続されているコンピューターに求められる最低限のセキュリティー対策を指す。仮想敵国への情報流出リスクを判定する規定であり、米軍は条件を満たしていれば使用できるとした。

     しかし、実際は、DJIが中国企業というだけでOPSECの規定に反するとの見方が強く、現在も米軍でのDJI機の使用は一定の制限がかけられたままだ。

    データを合法的に持ち出す

     米軍がDJI機の使用禁止を打ち出した直後の8月16日、DJIは、ドローンが撮影したデータを中国のデータセンターに送信することなしに使用できる「ローカルデータ・モード」を発表した。このモードでドローンを操縦すればデータセンターがある中国に空撮情報が流れることはない、という説明だった。

     だが、ローカルデータ・モードでの飛行は、高度が30メートル以下に限定される上に、DJI機の最大の特長である飛行中の高度な安全装置が機能しないといわれている。ローカルデータ・モード時に機能が制限されることはDJIの操作マニュアルにも明記されおり、実際にこのモードで使用する人は極めて少ないと見られる。つまり、通常の飛行モードを選んだユーザーは、従来どおり空撮データがDJIのデータセンターに流れることを承諾せざるを得ない。したがって、DJIは合法的に空撮データを中国に送ることができる。

     また、DJI機を排除しても他社製のドローンの多くが、GPSやジャイロ、加速度、磁気などのセンサーを搭載して飛行制御を行う「フライト・コントローラー」にDJI製品を搭載していると言われる。「ドローンの心臓部」といえるフライト・コントローラーをDJIに握られた業界では、「DJIの呪縛からは逃れられないと」の見方もある。

    中国企業縛る「国家情報法」

     DJI製ドローンの問題は、18年末に米国が中国通信機器機大手の華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)社製の通信機器を全米から排除する決定を下した事件と通底している。米国が決定を下した背景には中国が17年6月に施行した「国家情報法」に対する懸念がある。

     同法は、“国家としての情報収集に法的根拠を与える”ために定められた法律だ。その第1条は、「国の情報活動を強化および保証し、国の安全と利益を守ることを目的とする」と規定し、第7条は、「いかなる組織および個人も法に基づき国の情報活動に協力し、国の情報活動に関する秘密を守る義務を有し、国は情報活動に協力した組織及び個人を保護する」としている。

     つまり、中国の国民全員が、国のために情報収集を行う存在であると定義している。これはスパイにほかならない。この国家情報法によって個人だけでなくファーウェイやZTEといった企業も中国政府にあらがえない制度になっている。DJIも例外ではない。

    規制が必要

     日本の防衛省は18年2月、国内の米軍基地、専用施設の上空や周辺でドローンを飛行させないよう、「航空機の安全な航行を妨害した場合は、法令違反に当たる」と注意喚起するビラを各地の防衛局に張り出した。だが、現代の「ドローン戦争」を想定すると生ぬるいと言うほかない。

     現在の軍用ドローンは、たった1機で飛行場を壊滅させる破壊力を持つ。防衛省が多額の防衛費を投じて日本に配備する「陸上イージス」(陸上配備型ミサイル迎撃システム)でも対応できない可能性が高い。仮に低空を自律飛行可能なドローンを大量に製造できる国が、軍隊として「ドローン戦闘機部隊」を整備し、何千、何万ものドローンを戦争の相手国へ向かわせる戦術をとった場合、相手国は大打撃を被るだろう。

     ドローンが集める「空間地理情報」については、現時点で、海外を含め法的規制を敷いている国はないが、個人情報と同じく空間地理情報の取り扱いについては法規制が必要である。空間地理情報は簡単に個人が収集できるが、本来、個人のものではない。安全保障につながる国家として守るべき情報である。同様にカメラで撮影されたあらゆる空間地理に関する動画情報(静止画を含め)は国内のサーバーに保存すべきものであって、決して海外のサーバーに保存すべきものではない。

     産業用ドローンの普及に異論はないが、米国のように安全保障の観点からドローンの技術的仕様について何らかのセキュリティー規制を設けることは不可欠といえる。18年末、「日本政府はファーウェイとZTEの製品を、政府調達から事実上排除する方針」と報道されたが、ドローンについても早急に検討すべき時にきている。

    (山崎文明・情報安全保障研究所首席研究員)

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