ヤメ検に聞く司法取引の衝撃「対象は経済犯罪が中心」
社内調査の体制整備を
元東京地検特捜部の検事で企業の危機管理に詳しい平尾覚(かく)弁護士(西村あさひ法律事務所)に聞いた。
日本版司法取引は、法令上は経済犯罪と反社会的勢力による組織犯罪が対象とされているものの、実際に司法取引が使われるのは経済犯罪が中心になるだろう。というのも、反社会的勢力関連の組織犯罪の場合、司法取引に応じた証人は組織にとっては「裏切者」だ。必ず組織から報復を受けるので、刑を免れたところで間尺に合わない。米国では証人保護プログラムがあり、組織の手から証人の身の安全を確保する手段が確立しているが、日本にはそれがないし、日本で証人保護プログラムを確立するのは容易ではない。
対象事件が経済犯罪に限定されるだけでなく、ある程度実績が積み上がり、制度として定着するまでは「特捜事件」(東京・大阪・名古屋の各地方検察庁に設置されている特別捜査部〈特捜〉が担当する事件)が中心となり、適用件数も年間数件程度にとどまる可能性が高い。
捜査機関の証拠収集能力を大きく向上させるという意味で、司法取引の導入は検察にとっていわば悲願であり、何としても定着させたい制度だ。このため、司法取引は高等検察庁の検事長が指揮して行うこととされており、確実に証拠がそろい、「間違いなく有罪にできる」よう慎重に選別されるだろう。
従って、司法取引の導入によって、企業に新たなリスクが発生したわけではないが、それまでは一方的に捜査を受ける立場だった企業に、検察官と交渉できる道が開けたことは間違いない。社内調査で事実を解明できる体制が整っていれば、不幸にして刑事事件の当事者となった場合でも、取引に値すると検察官が判断するような材料によって、損害を最小限に抑えることも可能になるだろう。
(聞き手=伊藤歩)