銀行融資 vs. AI 異業種参入で揺らぐ「本業」=高橋克英/1
銀行の中核業務である融資が、人工知能(AI)を使った「AIレンディング」の登場で大きく揺らいでいる。法人向け融資では決済や財務情報をリアルタイムで把握するクラウド会計サービスなどのデータを、個人向け融資では年収や家族構成などの情報をAIで分析し、貸出金利や期間などの融資条件を設定するものだ。豊富なデータを持つ異業種からの参入が相次ぎ、従来型の融資に安住する銀行のお株を奪いかねない勢いだ。
会計ソフトの弥生とオリックスが共同で設立したアルトア(東京都千代田区)は2017年12月、会計ソフトを手がける弥生のビッグデータやオリックスの持つ与信ノウハウを活用し、オンライン上で審査したうえで小規模事業者向けに短期・小口融資をするサービスを開始した。最短で即日融資も可能なスピードが売りで、日々の資金繰りの状況などを会計ソフトを通じて得ているからこそ実現したビジネスモデルだ。18年12月からは個人事業主向けにも対象を拡大した。
また、クラウド会計のマネーフォワードは、子会社を通じて19年中に中小企業や個人事業主向けAIレンディングに参入する計画だ。楽天やリクルートは、電子商取引(EC)や旅行サイトのデータなどから信用力を判断することで、銀行を介さない形で融資業務に参入している。米アマゾンは11年、米国で同社に出品する企業へ売り掛け債権の範囲内で融資を始めており、日本でも同制度を導入して融資を拡大しつつある。
膨大データで信用評価
銀行側も手をこまねいているわけではない。みずほ銀行はソフトバンクと共同出資してJスコア(東京都港区)を設立し、17年9月にAIを使った個人向け融資を開始した。AIが顧客の年収や預金額などの情報に基づいて信用力を点数化し、融資可能額や金利を決める。個人事業主や中小企業にも対象を拡大する予定だ。また、三菱UFJ銀行も19年度中に、中小企業向けのオンラインAIレンディングを始める予定だ。
銀行は従来、取引先の企業から提供された財務諸表や担保の評価、その銀行が把握する入出金の状況などから審査し、融資を実行してきた。しかし、提出書類の多さもあって審査に時間がかかり、企業の突発的な資金需要などに応えられていない。また、必ずしも銀行員が取引先の業界に精通しているわけではなく、取引先の事業の将来性を適正に評価する能力にも疑問が多い。結局、銀行間で金利の競争となり、体力を消耗する一因となっている。
ただ、融資業務に参入する異業種は、いずれも銀行が把握しきれない取引先企業のさまざまなデータを日々、膨大に収集している。これらをAIが分析して信用力や事業性を評価することで、短期間で融資を実行するビジネスモデルだ。銀行の従来型融資では対応が難しい企業の真の資金需要を掘り起こせば、相応の金利を得ることも可能になる。銀行が今後、利ざやを稼いで生き残るには、異業種と提携してAIレンディングを活用するしか道はないのかもしれない。
(高橋克英・マリブジャパン代表)