美術 福沢一郎展 このどうしようもない世界を笑いとばせ=石川健次
有料記事
社会を冷徹に、知的に見つめ 混迷を増す今、改めて輝きを増す
しばしば戦後美術の起点に位置づけられると本展図録にある。図版に挙げた作品だ。裸体の男性が積み重なっている。明らかにおぞましい状況だ。異臭さえ漂いそうなほどの異様な光景とは不釣り合いな青空が、異様を際立たせる。
この絵を描いた福沢一郎(1898~1992)は、戦前戦後を通じて昭和の洋画界を牽引(けんいん)した画家だ。美術史的には日本にシュルレアリスム運動の火種を投じた画家と紹介するほうが、美術ファンにはなじみがあるかもしれない。なるほど、東京帝国大学文学部で学ぶも学業はそっちのけで美術に関心を抱いてパリに渡り、マックス・エルンストらシュルレアリストに刺激を受け、日本で発表した滞欧作がシュルレアリスム絵画の本格的な日本への登場となった、というのが福沢をめぐる教科書的なイメージだろうか。
でも、福沢自身はシュルレアリストを自称したことはなかったと本展は伝える。「日本におけるシュルレアリスムの紹介に重要な役割を果たしたことは事実」(図録)としつつ、「シュルレアリスムのある部分のみを自らの制作に取り入れ、それを武器に彼独自の表現を進めよう」(同)とした福沢の画業の総体、今日的意義に本展は迫る。
残り732文字(全文1261文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める