教養・歴史アートな時間

映画 バイス=寺脇研

(c) 2019 ANNAPURNA PICTURES,LLC.ALL rights reserved.
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情報操作も拷問もやりたい放題 米元副大統領の「非道」を暴く

「バイス」という題名は副大統領(バイス・プレジデント)を意味する。そう、この映画の主人公はジョージ・ブッシュ大統領(在任2001~09年)の副大統領を務めたディック・チェイニーである。

 米国映画には大統領を主役にした作品が多いが、知名度の低い副大統領の物語が登場するとは珍しい。この人は別格ということだろう。なにしろ、政治手腕が怪しい大統領を支えるため敏腕をふるい「影の大統領」とも見られていた実力者だ。

 意外にも学生時代は飲酒運転や喧嘩(けんか)で警察の厄介になり、大学も一度退学になって荒れていた過去が明かされる。大学院卒業後、ニクソン政権で重要ポストにいたラムズフェルド(ブッシュ政権の国防長官)の知遇を得てのし上がり、フォード政権で史上最年少の大統領首席補佐官に起用された。そして下院議員、ブッシュ(父)政権の国防長官と枢要な職に就く。この出世物語は、1960年代末から90年代初めまで米国を支配した共和党政治の歴史と権力抗争のスリルを味わわせてくれる。

 民主党のクリントン政権誕生で下野したチェイニーは、心臓病もあり政界から離れ石油資本のCEO(最高経営責任者)となって家族に囲まれ悠々自適の生活を送る。そこへエンディングのクレジットタイトルが流れ、あれ? たった50分で終わるの? と思わせておいて、映画はぬけぬけと再び始まる。ふざけたお遊び演出だ。いや、実はこの映画、終始遊びの精神で政治家一代記を綴(つづ)っていくのである。皮肉の利いた語り口が、チェイニーら権力者たちの強引な政権運営、私利私欲で始める戦争といった非道の数々を冷徹に暴き立てていくのになんとも効果的だ。

 後半は、「影の大統領」の独壇場である。大統領選挙の開票をめぐる疑惑でブッシュ当選が覆りかねない状況になると、強引に政権を発足させて既成事実を作ってしまう。9・11同時多発テロの対応は大統領そっちのけで仕切り、アフガニスタンでの対テロの戦いからイラク戦争へと突き進む。情報操作も拷問も巧みに合法化してやりたい放題だ。

 その裏に、石油資本の利権が絡んでいる疑いや、統治機構の私物化があると、作者たちは指弾する。しかしチェイニーは平気の平左で自分の非を認めない。心臓病で死にかかっても運良く移植できて助かる悪運の強さで現在も存命だ。

 やれやれ……とやりきれぬ気持ちにさせつつ今度は本当のエンディング、と思いきや、もう一つ仕掛けがあるのですぐに席を立たないように。現在の米国の政治状況に繋(つな)がる最後のワンシーンが痛烈だ。

(寺脇研・京都造形芸術大学客員教授)

監督 アダム・マッケイ

出演 クリスチャン・ベール、エイミー・アダムス、スティーヴ・カレル、サム・ロックウェル

2018年 米国

4月5日(金)~TOHOシネマズ 日比谷ほか全国順次公開

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