激闘!インデックス投信 ネットや銀行・生保系躍進=浜田健太郎
日本の資産運用業界で地殻変動が起きつつある。「つみたてNISA(ニーサ)」など税制優遇施策の導入を契機に、低コストのインデックス(指数)連動型投資信託(投信)の残高が急増しているのだ。投信評価会社のモーニングスターによると、国内投信10社が設定した個人向けのインデックス投信の残高は2014年3月末の1935億円から19年3月末に1兆1463億円と、過去5年間で約6倍に伸びた(図1)。
個人向けインデックス投信に厳密な定義はないが、「販売手数料が無料(ノーロード)」で「信託報酬率が低く」「主にネットで販売されている」のが特徴。運用対象は、「東証株価指数(TOPIX)」や「S&P500」をはじめ、国内外の株式や債券などの指数だ。
国内の公募投信全体の残高はここ数年、80兆円前後で足踏みが続いている(図2)。運用会社の顔ぶれも純資産残高上位3社を野村アセットマネジメントはじめ証券系が占め、主要プレーヤーはここ十数年、大きく変わっていないようにも見える。
しかし、個人向けインデックス投信の世界に視線を移すと、風景はガラリと変わる。純資産残高のトップは三菱UFJ国際投信、2位は三井住友トラスト・アセットマネジメント、3位はニッセイアセットマネジメントなどと銀行や生保、ネット系が躍進する。
増えない個人金融資産
インデックス投信の残高が急増している背景には、個人金融資産で「貯蓄から投資」への流れを加速させたい政府・金融庁が、投信購入に対する税制優遇を推し進めたことがある。
インデックス投資の本質は、コストの低いインデックスファンドに分散投資することで、世界経済の成長を個人の資産形成に取り込むことだ。
金融庁によると、個人の株式や投信への投資が盛んな米英では、個人の金融資産は1997年から2017年の20年間で、米国で2.9倍の9040兆円、英国で2.6倍の960兆円に増えた(図3)。
日本の個人金融資産は同期間に1.4倍の1860兆円。大半が現預金で保有される中、超低金利が続き、伸び悩んだ。
そのため、金融庁は、少額・低コストでグローバルな分散投資が可能なインデックス投資を促すことで、個人の資産運用環境を改善しようとしている。14年1月、少額投資などを税制優遇するNISAがスタート。18年1月には、最大20年までの長期投資を対象に優遇するつみたてNISAを導入し、投資家の裾野拡大を後押しした。
つみたてNISAの特徴はその制度設計に表れている。対象商品は「積み立て・分散投資向き」「ノーロード」「信託報酬は国内株のインデックス投信の場合年率0.5%以下」などの要件を満たしたものに限定。金融庁の「お墨付き」を得た商品はわずかに159本と、国内公募投信約6200本中の2.5%に過ぎないが、インデックス投信はそのうちの142本を占める。
迫られる商慣行の変革
金融庁の政策変更は「個別株やテーマ型投信の短期売買で手数料を稼ぐ」という旧来の国内運用業界の意識を変えつつある。
中でも、個人向けインデックス投信の純資産残高で3683億円とトップを走る三菱UFJ国際投信の勢いが目立つ。
同社は、09年に個人向けインデックス投信の統一ブランド、「eMAXIS(イーマクシス)シリーズ」を発売したが、17年2月には、「業界最低水準」の信託報酬を「保証」するという触れ込みで「eMAXIS Slim(スリム)シリーズ」を投入。人気商品の「eMAXISスリム 先進国株式インデックス」の場合、信託報酬は年率0・1177%まで低下した。
同分野3位のニッセイアセットマネジメントも信託報酬の引き下げに積極的だ。「〈購入・換金手数料なし〉ニッセイ外国株式インデックスファンド」は13年12月に設定以来、信託報酬を4回引き下げた。
「SMTシリーズ」を展開する同2位の三井住友トラスト・アセットマネジメントも「機関投資家向けに培ってきた運用スキルをリテール(個人向け)でも共有できる」(横瀬隆司・商品戦略企画部長)と自信を見せる。
米巨人と組む楽天
ネット系の楽天投信投資顧問は、17年から米インデックス投信の巨人、バンガード・グループのETF(上場投資信託)を投資対象とする「楽天バンガードシリーズ」を設定。グループの楽天証券での販売を中心に、残高を1年半で約600億円に伸ばした。
一方、国内運用業界の雄、野村アセットマネジメントは、「最良の運用成績を確保し、投資家の裾野拡大のためには適正利潤が必要」(同社担当者)として、業界の価格競争からは距離を置く構えだ。
三菱UFJ国際投信の代田秀雄常務執行役員は、「この分野で勝ち残る運用会社は1社か2社。米国ではバンガードとブラックロックの2強に対抗する勢力はいない」と強調する。インデックス投資の拡大は、中長期的には、国内運用業界の勢力図を塗り替えるポテンシャルを秘めていそうだ。
(浜田健太郎・編集部)