教養・歴史書評

楠公再評価の一方で、冷静な実証分析が登場=今谷明

     第二次大戦中、軍隊では、上官に「貴様は出身地はどこか」と問われ、「栃木県足利市です」と答えようものなら、鉄拳制裁に遭う、という無茶があったようだ。戦前・戦中、楠木正成(くすのきまさしげ)が「軍神」とあがめられる陰で、割を食ったのがそのライバルの足利尊氏というわけである。

     近年、楠公(なんこう)の遺跡がある市町村が連合し、文化庁に日本遺産として申請するなどの動きがあるという。一部メディアも加わる流れに、戦前のような楠公崇拝への危機感を覚える向きもあり、谷田博幸著『国家はいかに「楠木正成」を作ったのか 非常時日本の楠公崇拝』(河出書房新社、2900円)が上梓(じょうし)された。

     著者は昭和史の暗黒面を引きはがすという意図から、戦前の歴史教育、楠公崇拝に加担した学者、小説家にいたるまで詳細に検討を加える。著者は西洋美術史が専門の学者で、このテーマはいわば門外漢であるが、引用書目は数百点に及び、信じがたい博識ぶりで、評者のごとき中世史研究者から見ても驚かされる。

    残り543文字(全文977文字)

    週刊エコノミスト

    週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
    有料会員になると、続きをお読みいただけます。

    ・会員限定の有料記事が読み放題
    ・1989年からの誌面掲載記事検索
    ・デジタル紙面で過去8号分のバックナンバーが読める

    通常価格 月額2,040円(税込)

    週刊エコノミスト最新号のご案内

    週刊エコノミスト最新号

    8月10日・17日合併号

    2021年下期世界経済&マーケット総予測14 ホテル・飲食業が出店再開 「K字型回復」に戸惑う市場 ■中園 敦二/和田 肇17 インタビュー 菊地 唯夫 ロイヤルホールディングス会長 「4度目の緊急事態は想定外」20        平井 卓也 デジタル改革担当相 「スマホ60秒で行政サービス」23 [目次を見る]

    デジタル紙面ビューアーで読む

    おすすめ情報

    最新の注目記事