教養・歴史書評

楠公再評価の一方で、冷静な実証分析が登場=今谷明

 第二次大戦中、軍隊では、上官に「貴様は出身地はどこか」と問われ、「栃木県足利市です」と答えようものなら、鉄拳制裁に遭う、という無茶があったようだ。戦前・戦中、楠木正成(くすのきまさしげ)が「軍神」とあがめられる陰で、割を食ったのがそのライバルの足利尊氏というわけである。

 近年、楠公(なんこう)の遺跡がある市町村が連合し、文化庁に日本遺産として申請するなどの動きがあるという。一部メディアも加わる流れに、戦前のような楠公崇拝への危機感を覚える向きもあり、谷田博幸著『国家はいかに「楠木正成」を作ったのか 非常時日本の楠公崇拝』(河出書房新社、2900円)が上梓(じょうし)された。

 著者は昭和史の暗黒面を引きはがすという意図から、戦前の歴史教育、楠公崇拝に加担した学者、小説家にいたるまで詳細に検討を加える。著者は西洋美術史が専門の学者で、このテーマはいわば門外漢であるが、引用書目は数百点に及び、信じがたい博識ぶりで、評者のごとき中世史研究者から見ても驚かされる。

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