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国際・政治 失速!米国経済

景気減速の兆候が続々 政策相場のツケが回る時=大堀達也/桑子かつ代

ファーウェイへの禁輸措置で米中対立は不透明感が増した(Bloomberg)
ファーウェイへの禁輸措置で米中対立は不透明感が増した(Bloomberg)
(出所)Bloomberg
(出所)Bloomberg

 米国株がじりじりと値を下げている。ニューヨーク・ダウ工業株価指数は5月20~26日に週間ベースで2011年以来となる5週続落を記録。S&P500株価指数も米企業の好決算を受け4月末に史上最高値(2945ポイント)を更新した後は、米中摩擦の激化を受けて下降基調に転じた。5月28日時点でNYダウは2万5000ドル台前半、S&P500も約2800ポイントに沈んでいる(図1)。

 米国株がさえない大きな理由の一つは米中貿易戦争長期化への懸念だ。トランプ政権は5月10日、対中関税「第3弾」を発動。追い打ちをかけるように「安全保障上の懸念」から中国通信機器大手ファーウェイに対し米国企業が部品やソフトウエアを提供することを禁じた。これが、米クアルコムなど同社へ部品を供給していた米ハイテク企業の経営を直撃するとの見方から、米ハイテク株は大きく値を崩した。「関税第4弾」もちらつく中、米国株は反転のきっかけをつかめないままだ。

(注)銅はLMEロンドン3カ月先物(出所)Bloomberg
(注)銅はLMEロンドン3カ月先物(出所)Bloomberg

 こうした中、米国の実体経済の下振れを示唆する指標が続々と出てきている。景気の先行指標となるISM製造業指数(4月)は、16年終盤以来の低水準を付けた(図2)。その製造業の先行きを示す銅の価格は5月に入り10%近く下落した。貿易戦争の先行きが、製造業の経営者に心理的な重荷になっているのだ。

 好調な米国経済を支えてきた雇用についても、下振れのシグナルが見え始めた。経営者の関心事が人手不足に伴う「労働の質」から「売り上げの低迷」に変わりつつある。企業が採用を消極化する不安がちらつく。

(出所)Bloomberg
(出所)Bloomberg

 採用の抑制は、雇用の減少や労働者の賃金減少を通じて、米GDP(国内総生産)の約7割を占める個人消費を直撃する。更なる懸念は、住宅価格の下落だ。その指標となるケース・シラー住宅価格指数(20都市)は伸びが鈍化している(図3)。米国において住宅は平均的な家計が保有する資産の6割を占めるとも言われる。その下落は家計の資産を減少させるため、個人消費の大きな抑制要因になる。

「投機的」に格下げも

 落とし穴は他にもある。米国経済を潜在成長率以上に加速させたトランプ政権の積極財政と米連邦準備制度理事会(FRB)の低金利政策による「政策相場」の効果が剥落し、逆に市場にリスクとして認識され始めた。

(出所)米議会予算局
(出所)米議会予算局

 法人減税と拡張的な財政出動の結果、19年度の財政赤字は5310億ドル(約58兆円)と、18年度の3850億ドル(約42兆円)から38%も増加する見通しだ(図4)。

 財政赤字の拡大は海外勢の「米国債」離れを引き起こしている。「10年債など長期債の買い手がいない」(市場関係者)。19年の米国債発行は2~5年債など比較的年限の短い国債の発行額が、7~30年の長・超長期債の発行額をそれぞれ上回る見込みだ。「安全資産」と言われる米国債が売られれば、長期金利が上昇し、株式市場に悪影響を与えかねない。

(出所)Bloomberg
(出所)Bloomberg

 企業債務の拡大も大きな懸念材料だ。非金融部門の債務は17年末で29兆ドル(約3200兆円)と08年のリーマン・ショック時を大きく上回る。企業が発行する社債市場では投資適格中、信用力が最低の「BBB(トリプルB)」格債が増えた(図5)。ひとたび、金利が上昇すればこれらのBBB格債は「投機的」に格下げされる。企業経営者の雇用や設備投資に対するマインドが冷え込むのは必至だ。

(出所)etfgi.com
(出所)etfgi.com

 上場投資信託(ETF)の積み上がりを懸念材料と見る向きもある。08年の世界的な金融緩和以降、膨らみ続けたETFの資産残高は18年時点で5.4兆ドル(約590兆円)。その約7割に相当する3.8兆ドル(約410兆円)が米国で発行されている(図6)。金利が上昇すれば、債券などで含み損を抱えた投資家がリスク資産への投資を圧縮する結果、巨大な「ETFバブル」が弾ける可能性がある。

(出所)米財務省、Bloomberg
(出所)米財務省、Bloomberg

 これらのリスクが、局所的に発生した決済機能の不全が全世界に波及する「システミックリスク」に発展すると見る市場関係者はまだ少ないが、昨秋のような米国株の暴落が起きる可能性も否定しがたい。実際、米国株式市場の時価総額に対する米名目GDPの割合を示す「バフェット指数」は165%でリーマン・ショック時を上回る割高な水準にある(図7)。

 リーマン・ショック時に財務官だった篠原尚之氏は、かつて本誌の取材に対し「金融危機の経路は起きるまで分からない」と語った。4月の米雇用統計で失業率が49年ぶりの低水準を記録し、個人消費が底堅さを見せていることを背景に市場には「米国経済はいまだ好調」との見方が根強い。だが、次の危機の芽が見えないところで大きくなっている可能性もある。

(大堀達也/桑子かつ代・編集部)

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