名門企業も淘汰 地銀「融資先の倒産準備」競争=友田信男
企業倒産が記録的な低水準で推移するなか、銀行業界には静かな地殻変動が始まっている。2018年以降、日本海洋掘削が会社更生法を申請。曙ブレーキ工業、田淵電機、パイオニアなども事業再生ADR(裁判外紛争解決手続き)やファンド支援による経営再建にかじを切った。いずれも東証1部上場の歴史ある名門企業だったが、ここに至った背景は金融支援の変化が共通している。
金融庁は、銀行に日本型金融からの脱却を促している。その根幹には「事業性評価」がある。これまで銀行は取引先への貸し出しは業績や財務データ、担保を重視していたが、保守的な材料に必要以上に依存せず、事業内容や成長可能性の評価に変わってきた。これに基づき名門企業も将来性の評価次第で、淘汰(とうた)が選択肢に入る象徴的な出来事となった。
引当金の積み増し
とりわけ地銀を取り巻く環境は、16年2月の日本銀行のマイナス金利導入、人口減少などで年々厳しさを増している。金融庁は18年11月の「金融仲介の改善に向けた検討会議」で、17年度決算で地域銀行の過半数の54行が本業利益が赤字と公表し、持続可能なビジネスモデルの構築を求めた。国内銀行の19年3月末の貸出額は537兆1564億円(前年同期比5・0%増)と増加した。一見すると順調だが、収益力を示すコア業務純益は貸し出し利ざやが縮小し、18年9月中間決算では「逆ザヤ」に陥った地域銀行は14行に達する。
一方、19年3月末の破綻先債権は2295億円(同5.4%減)に減少したが、将来のデフォルト(債務不履行)率上昇を見越して貸し倒れ引当金を積み増す銀行が目立ってきた。同期の貸し倒れ引当金は2兆7241億円(同0.1%増)で、貸し倒れ引当金を積み増した銀行は57行と前年同期の20行から約3倍に増えた(図)。
13年3月末に中小企業金融円滑化法が終了後も、金融機関は企業の返済猶予に応じ倒産を抑制してきた。だが、金融庁は返済猶予の報告義務を19年3月で休止を決定し、今後は銀行は独自判断を迫られている。それに先行した貸し倒れ引当金の積み増しは、体力のある銀行が1年前から債務者区分を見直し、引当金を積み増したことを意味する。
銀行が全体で保有する有価証券は1942兆円(19年4月)。このうち国債は645兆円、外国証券は493兆円を占め、為替や金利の変動次第で含み益が消失するリスクを内包している。08年のリーマン・ショック後、事業不振の企業を返済猶予や経営課題の解決などで支援し、ミドルリスク企業への貸し出しも不良債権として顕在化しなかった。
しかし、事業性評価で状況は一変した。貸し出し競争に巻き込まれ、リスク見合いの金利をとれないケースは少なくない。潜在リスクが高まるなか、銀行のリスク対応は財務内容の優劣で二極化が広がっている。
金融庁は18年4月、一つでも本業が不採算に陥る可能性がある地域銀行を持つ都道府県は23と試算した。先行きが不透明な今こそ、生き残りをかけて自行の「目利き力」が問われている。
(友田信男・東京商工リサーチ常務情報本部長)