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国際・政治 ファーウェイ大解剖

ファーウェイ創業者・任正非の素顔 辛酸の半生が鍛えた危機管理能力 「この世に救世主なんていない」=田代秀敏

任正非氏の次女、姚安娜氏。米独立戦争の「ボストン包囲戦」の絵画を背にした微笑が意味深だ。(姚安娜氏のインスタグラムから)
任正非氏の次女、姚安娜氏。米独立戦争の「ボストン包囲戦」の絵画を背にした微笑が意味深だ。(姚安娜氏のインスタグラムから)

 華為技術(ファーウェイ)の年初来の全世界スマートフォン出荷台数は、5月30日に1億台を超えた。1億台超えの日付は、2016年が12月22日、17年が9月12日、18年が7月18日と年々早まり、遂に今年は上半期となった。

 12年10月から米国の議会・政府がファーウェイを執拗(しつよう)に敵視し排斥し続けているにもかかわらず奇跡的な成長を遂げた民営企業を一代で作り上げた任正非(レン・ヂャンフェイ)氏とは、どのような人物だろうか。

弾丸飛び交う中、独学

任正非(Bloomberg)
任正非(Bloomberg)

 任氏は1944年10月25日、南中国の内陸部の貴州省の山深い安順市鎮寧プイ族ミャオ族自治州で、漢民族の7人兄弟の長男として生まれた。両親は当時の中国で最下層職業であった学校教師であり、極めて薄給であった。食うや食わずの極貧の暮らしが任氏の不屈の精神を育んだ。

 任氏は63年に重慶建築工程学院(現在は重慶大学と合併)に入学したが、その後文化大革命(文革)が始まり、国民党軍の工場に勤務した経歴がある父親は暴力的なつるし上げの対象となった。

 重慶での激烈な武力闘争から逃れ、ほうほうの体で帰省した任氏を、父親は「知識は力だ。流されずに勉強しろ」と、追い返した。重慶に戻ると「弾丸が飛び交う」状態であったが、任氏は建築学の他に、コンピューター、応用数学、自動制御理論、哲学、3つの外国語などを独学した。

 しかし「どこに行っても逆境に置かれていた」と回顧している通り、任氏は中国共産党の党員育成団体である中国共産主義青年団(共青団)になかなか入団できず、入党も長く許されなかった。

 任氏は67年に卒業したが、文革による混乱により68年に、人民解放軍の社会インフラ整備・工業プラント建設・鉱山開発の施工部隊である基本建設工程兵団に配属された。副団長クラスまで昇進したが、一度も褒賞されなかった。

 文革が終わって2年後の78年、全国科学大会で受勲したことでようやく入党できた任氏は、当時の妻であった孟軍氏の父親の縁故で82年の党大会に代表の一人として招かれた。だが、84年に軍の大規模リストラで基本建設工程兵団が廃止されたのに伴い軍を退役させられた。

 任氏は、当時の妻の父親が経営幹部を務めていた国営企業「深セン南油集団」の子会社の社長に就いた。しかし、百数万元の会社財産をだまし取られ解雇されただけでなく、党内でも処分を受けた。その後、「仕事がうまくいかず、生き延びるためにファーウェイを創業した」と任氏は述べている。こうした経歴が任氏を「危機管理の権化」に鍛え上げた。

 任氏は「ファーウェイ基本法」第98条で「会社が危機に置かれている時は、危機に直面しているとともにチャンスにも直面している」と述べ、危機を発展の原動力としている。そして、「危機管理の目標は危険をチャンスに変えて、会社が陥穽(かんせい)を超えて新しい成長段階に入るようにすることである」とする。

本社で飼う「黒鳥」

「この世に救世主なんていない。神様も仏様も頼りにしない。新たな生活の創造は、すべて自分次第なのだ」。94年に北京で開催された展覧会でファーウェイのブースに掲げた標語の通り、任氏は党・政府の役職に一切就かず、経営に専念してきた。

 任氏は、「最大の苦しみは融資が受けられなかったことだ。私個人の収入はすべて会社の未来に投資してきた」と振り返っている。

 任氏は、地域の業界の最高水準より高い平均年収を保証して一流の人材を集めている。終身雇用制を採らないと宣言し、基本給を能力主義的職能給制度で調整し、中堅以上の従業員には議決権のない「ファントム株(架空株)」の増資分を各自の成果に比例して購入させ、会社の資金調達の手段としている。

 危機管理の権化である任氏は、ファーウェイ本社ビルの前の池に豪州から輸入した黒鳥を飼い、「ブラックスワン(想定外の事態)は今そこにある」と従業員に示している。その任氏の現在(三番目)の妻との間の次女(写真)は米ハーバード大学に留学中だ。最初の妻との間の長女のように拘束されることはないと、任氏が確信する理由は不明である。

(田代秀敏、シグマ・キャピタルチーフエコノミスト)

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