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「トランプよ永遠に?!」 大統領多選議論の歴史=井上祐介
トランプ大統領は6月18日、来年の大統領選挙への立候補を正式に表明した。数日後、ツイッターに投稿した動画が波紋を呼んだ。トランプ大統領の選挙ポスターが登場する映像だが、選挙年は2024年から始まり、28年、32年と次々と更新され、最終的には「TRUMP 4EVA(トランプ、永遠に!)」で終わる。超長期政権を示唆する動画は支持者に大受けだったが、たとえ冗談だとしても民主主義の原則に反して非常識なメッセージだ、と批判する声も上がった。
米国の大統領の任期が2期8年に制限されていることはよく知られている。大統領の選出方法や在任期間は1787年のフィラデルフィア憲法制定会議において数カ月間議論された。その結果、連邦政府の安定を維持しつつ、権力の過度な集中を回避するには1期を4年にすべきとの結論に至り、大統領の再選についても認められた。しかし、当時は再選の回数についての決まりは設けられなかった。初代大統領ジョージ・ワシントンが2期8年で引退したことが慣例となり、その後も踏襲された。
この伝統を破ったのが民主党の第32代大統領フランクリン・ルーズベルトである。世界大恐慌と欧州での第二次世界大戦開戦という非常事態も重なり、1940年に3回目、44年に4回目の当選を果たし、在職中に死去するまで12年以上も大統領職にあった。当時、野党の立場から大統領の多選を批判してきた共和党が46年に議会で過半数を獲得したことで、大統領の再選回数の制限に動いた結果、51年に合衆国憲法修正第22条が成立し、大統領の再選は1回までと規定された。
大統領の最適な任期についての議論は繰り返されてきた。2期目の後半はレームダック(死に体)化が避けられないため、再選を禁止する代わりに1期を6年に延ばす案などである。しかし、現在では2期8年が国民の間にも定着しており、変更の必要性はあまり感じられていない。
問題は議員任期制限
問題とされるのはむしろ連邦議員の任期だ。議員の再選については制限がなく、平均在任期間は上院が10年、下院が9年だ。上院ではバーモント州のリーヒ議員が44年、下院ではアラスカ州のヤング議員が46年間、在職を続けている。現行議会でも議員の在任期間を通算12年に制限する案が提案されている。ワシントンの既得権益を批判して当選したトランプ大統領も、任期制限の導入を支持している。
トランプ大統領が24年以降も大統領であり続ける可能性を示唆したのは今回が初めてではない。最近の集会では、有権者が自身の8年以上の在職を求めていると発言している。また、最初の2年間は不当なロシア疑惑の捜査によって妨害されたため、その分は在任期間に数えるべきでないとも主張してきた。
しかし、一方で、長期政権の可能性に言及するのは大騒ぎするメディアをからかうためだとも言っている。実際、トランプ大統領が20年の選挙で敗北した場合、結果を受け入れないのではないかとの報道が今回のツイートの引き金になったとみられている。トランプ政権が存続するためには20年の選挙に勝利することが大前提であり、トランプ大統領もまずは目の前の課題に照準を合わせてくることになろう。
(井上祐介・丸紅ワシントン事務所シニアマネージャー)