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経済司法を問う:拡大版 長期勾留は当たり前の検察 安易に認める裁判所

    撮影=中村琢磨
    撮影=中村琢磨

     日産自動車前会長のカルロス・ゴーン氏の逮捕をきっかけに、長期間の勾留で自白を強要する「人質司法」について国内外の報道機関の批判が強まっている。どこに問題があるのか。キャッツ、オリンパスの二つの粉飾決算事件で人質司法を実際に体験した元公認会計士、元証券マンと海外の捜査事情に詳しい外国法弁護士が日本の刑事司法の課題について話し合った。(司会=ミラー和空、構成=編集部)

    ―― まず、細野さん、横尾さんの「人質司法」の体験から。

    細野祐二 キャッツの粉飾決算は、2004年2月初旬にキャッツの経営陣が株価操作で強制捜査を受けて、事件化した。私が特捜部の呼び出しを受けたのは2月20日。それから逮捕されるまでの20日間ほど、任意の取り調べを受けた。私はずっと、株価操縦の参考人として話を聞かれていたと思っていたし、検事もそうだと言っていた。ところが途中から決算や会計処理などについて聞かれ出した。検事が複式簿記の基礎知識が全くないことが分かったので、キャッツの決算の会計処理について、噛んで含めるように話をした。

    2週間がたったある日、突然、検事が立ち上がり、「キャッツで粉飾決算があって、それを細野がこういう風に指導した」と微に入り細をうがった供述調書を何も見ずに6、7分間も一気に話し、検察事務官がそれをタイプして印刷した。

     検察官は「これは今日君が話したことだ。これに署名すれば、今日は帰ってもよい」という。私は、「何なんですか、これは。私はこんなことは言っていません」と抗議すると、検察官は激怒し、ガラス戸をバーンとたたいて脅す。3月初旬で暖房もなく非常に寒かったが、取り調べは午後1時から始まり、夜の8時ごろまで続いた。私は高血圧で、ペットボトルの水を飲んでいいかと聞くと、「ダメだ、ふざけるな」「検察は全部知っている。今日話した内容はほんの一部だ。検察をなめるな」と。その繰り返しだった。

    私は容疑を一貫して否認し続けたが、3月9日に逮捕され、その後190日間、東京・小菅の東京拘置所に勾留された。

    検面調書は「作文」

    ―― 否認を続けた細野さんがなぜ、有罪になったのか。

    細野 私は、粉飾決算をしていたとされるキャッツ(衛生害虫の駆除会社)の社長、専務、常務の経営陣3人が「私が粉飾決算を指導した」と検察の供述調書で言い、1審の法廷でもそのように証言したことで、粉飾決算の共同正犯として有罪判決を受けた。コンサルタント業務を提供していた顧客から「売られた」ことになる。

     でも、私はそれを当たり前のことだと思うし、彼らを恨んではいない。特捜検察に逮捕、勾留されて取り調べを受ければ、誰でもそうせざるを得ない。一般の人には想像もできないことだが、供述調書は、被疑者や参考人の供述をそのまま記録したものではない。検察官の考えたシナリオに沿って作文したものだ。検察官は「事実はこうなんだから、これに署名しろ」と脅し、なだめすかしながら署名を強要してくる。署名をしないと横尾さんのようにいつまでたっても取り調べが終わらず、拘置所から出してもらえない。

     皆さん、仕事を抱えている。「無実の細野先生を有罪に貶める」などと考える余裕はなく、自分が「生きるか、死ぬか」の状態だ。特捜検察の取り調べ、「人質司法」とはそういうものだ。

    誤報根拠に容疑者に

    ―― 横尾さんはオリンパス粉飾決算の共犯容疑で逮捕され、966日間も勾留された。

    横尾宣政 オリンパスが粉飾決算を発表した2011年11月8日から約1週間後、私は警視庁捜査2課に呼ばれた。冒頭、刑事からパスポートを渡せと言われたので、「私は粉飾決算の容疑者なんですか」と聞いたら、「その通りだ」と言う。何を理由に、どんな捜査を経て私が容疑者になっているか聞くと、「新聞、雑誌の情報だけだ。それ以外はない」と説明された。彼らは米『ニューヨーク・タイムズ』紙が掲載した私と兄が山口組に2000億円を渡したという記事を読んで、驚いて呼び出したらしい。もちろん、事実無根だ。

    その年の12月からは検察の取り調べも始まった。検察官は、「お前がやった証拠をたくさん持っている」と言いながら、全くその証拠を見せない。13年12月に公判が始まってわかったのだが、検察は直接的な証拠は一つも持っておらず、関係者の供述調書と状況証拠しか持っていなかった。

     勾留が966日間に及んだのは、検察の取り調べで一貫して容疑を否認したためだ。私は12年2月16日に逮捕されたが、否認を続けると3月7日の1回目の起訴日に別件の詐欺容疑で再逮捕された。その後、粉飾決算に関与した証拠とされた私のサインが偽筆であることや、私を犯人としたオリンパス側の容疑者の供述調書が矛盾していることを予定主張書面(公判で予定している主張をあらかじめ裁判所と検察に開示したもの)で指摘すると、6月11日にはマネーロンダリング(組織犯罪処罰法違反)の容疑で再々逮捕された。その結果、7月に始まるはずだった裁判が12月に延期された。

     私のコンサルティング会社の部下だった羽田拓、小野裕史の2人もそれぞれ966日、831日勾留された。拘置所の刑務官の話では、通常、複数の人間が特捜部に捕まった場合に、誰も上の人間を「売らない(裏切らない)」ことはありえないという。しかし、我々は3人とも一貫して容疑を否認し、3人合わせて2763日勾留された。これだけ見ても、我々が無罪だということは証明できると思う。

    憲法に違反する長期勾留

    ―― 米国でも有罪判決が出る前の長期勾留は一般的なのか。

    スティーブン・ギブンズ ホワイトカラーの犯罪では、極めて珍しい。日米の逮捕・勾留・自白などにおける憲法上の原則は一緒だ。一つは逮捕する時点で十分な理由があること。調査、捜査を経て十分な根拠があることを確認した上で逮捕する。その逆、つまり、この人は何かをやったかも、という「ぼんやりした」疑いだけで、まず、逮捕・勾留し、尋問をして、そこから事実関係を導き出すのは、憲法の原則に反する。

    日産のカルロス・ゴーン氏の事件もそうだが、売上高が10兆円単位の会社では、仮に彼が隠した報酬が数十億円だとしても全体から見れば僅少であり、それによって投資家がだまされたという重要な事実があるわけではない。「ぼんやりした」疑いを前提に逮捕・勾留して、そこから事実関係を見つけようというのは、米国ではまずありえない。

     身柄の拘束は懲罰的な処分であるため、原則上、日本でも米国でも未決勾留には厳しい条件が満たされる必要がある。一つは逃亡、もう一つは証拠隠滅の可能性があるかだ。最後は再犯の恐れだが、ホワイトカラーにはこの可能性はないので、あるとしたら最初の二つだ。検事と判事はこの二つを勾留事由に挙げるが、ゴーン氏のケースでもわかるように、彼が日産の本社に入って証拠を隠滅したり、逃亡したりする可能性は極めて低い。実際のところは検察と裁判所の間に、長期間にわたり尋問で圧力をかけ、自白させるという暗黙の了解があるのだろう。日本と米国の憲法は原則としては一緒だが、その解釈や実際の運用の仕方は極めて異なっている。

    ―― こうした取り調べが行われるのは、日本の刑事訴訟法に問題があるのか。あるいは、捜査機関の運用の問題なのか。

    ギブンズ 刑事訴訟法そのものよりも、裁判所の執行が問題だ。最初の逮捕から23日間は、裁判所は検察に犯罪の立証責任を求めることなく、フリーパスで勾留を認める。それがそもそも問題だ。ゴーン氏の場合、検察は逮捕後に段階的に彼から犯罪を引き出し、3回再逮捕し、勾留は結局108日間に伸びた。その間、逃亡、証拠隠滅のリスクは増えておらず、本来ならすぐに保釈すべきにもかかわらずだ。

    刑訴法「特信状況」の欠陥

    細野 私は刑事訴訟法の条文自体に問題があると思っている。321条第1項第2号に「特信状況」という規定がある。これは、証人の法廷での証言と、検察官の面前で取った「検面調書」の内容が違う場合に、特に信用すべき状況があると認めた場合は、検面調書を証拠採用できるという規定だ。密室で取られた検面調書の方が公判での証言より信用できる特別な状況など考えられないが、現行司法実務上は、容疑者が検察官の面前で自ら不利なことを自白していること自体が特信情況とされている。

    そこで、裁判所は、Aさんは罪を認めて自白しているからのAさんの検面調書は信用できる、と認定する。そして、Bさんも検面調書で同じことを言っている場合、Bさんの検面調書には法廷証言より特信性があるとされる。だから、検察官が検面調書を取ると、関係者の供述調書は判で押したように同じになる。それによって、裁判所が「特信状況」を認めるからだ。

    このように日本では、法廷での証言よりも、検面調書の証拠能力をはるかに高く認めるので、検察官は容疑者を長期勾留して、ガンガン検面調書を取ろうとする。その場合、本人が自白しなくても構わない。関係者に自白させればよいわけだ。

    ―― 米国では証人の証言の扱いはどうなるのか。 

    ギブンズ 法廷以外で証言することはまずない。米国の映画やドラマで見られるように、逮捕されると警察はその場で、「あなたには黙秘権がある。弁護人を雇う権利もある」と告げる。当然、容疑者は最初から黙秘する。

    全く盛り上がらない日本の法廷

    細野 欧米の法廷ドラマを見ていて、日本と非常に違うと思う点は、欧米は証言が決定的に重要で、証言の内容次第で法廷が非常に盛り上がるが、日本では証言は裁判の帰趨とは全く関係ないことだ。1審で私が粉飾決算を主導したと証言したキャッツの経営陣3人は、2審では、「検察官に証言を丸暗記させられ、40回もリハーサルさせられた」として証言を強要されたことを認めた。この逆転証言によりメディアは「細野氏は無罪かもしれない」と騒いだが、それは何の意味もなかった。なぜなら、特信状況により裁判所は既に検面調書を証拠採用しているから、法廷で何を言っても関係ないからだ。

    ―― 海外のメディアの間では、日本のマスコミが捜査機関の情報を一方的に流す風潮を疑問視する声もある。

    細野 欧米と違い、日本は記者クラブ制度がある。社会部が検察や警察の記者クラブから情報をもらうことによって新聞を作っている。だから、メディアの報道は捜査機関の言うとおりになる。

    横尾 事件発生時の新聞や雑誌の記事を弁護士が集めてくれたが、いずれも、検察や警視庁しか知り得ないことが載っている。しかも、その内容は間違いだらけだ。検察庁は私には絶対にマスコミに会うなと言いながら、自分たちは記者を集めてたくさんしゃべっている。

    ギブンズ ゴーン氏の場合、一番衝撃的だったのは、羽田空港での逮捕の瞬間がメディアにリークされたことだ。捜査当局が事前に捜査情報を流して、印象操作をすることは、正義に反することであり、絶対にやってはいけないことだ。なぜ、特捜部はリークした人間を処罰しないのか。

    公判をフォローしないメディア

    ―― マスコミは横尾さんの裁判をきちんと傍聴していたのか。

    横尾 マスコミが押し掛けたのは、最初の1日だけで、2回目からは激減し、あとは身内しかいなかった。50回の公判を最初から最後まで傍聴してくれたのは、共同通信出身のフリーのジャーナリスト一人だけ。その人は「あなたは100%冤罪だ。裁判を見れば分かる」と言ってくれた。

    ギブンズ オリンパス粉飾決算のような経済事件の事実関係は非常に複雑だ。それを地下鉄の中で新聞を読んでいる人、つまりより多くの人が理解できるように要点をつかんで説明する必要があるが、日本の普通の新聞記事はせいぜい800字程度で、中身が非常に浅い。日本のジャーナリズムの欠点の一つだ。

    内部統制機能しない特捜部

    ―― 日本の経済司法を改善するためには、何をすべきか。

    細野 一般的な統計からすると、日本は検挙率も犯罪摘発率も高く、治安も非常に良い。日本の司法制度は全体としては非常に有効に機能していると言える。問題は経済事件の捜査にあり、その担い手が特捜検察であることだ。

    米英では、警察などの捜査機関とは別個の検察官が、捜査のデュープロセス(適法手続き)をチェックして、証拠の十分性を検証して、立件している。検察の起訴判断は警察に対するけん制だ。だから、内部統制が機能し、冤罪を防止する。しかし、日本の特捜検察は、自ら捜査して、自らが起訴・立件権を独占しており、内部統制が全く機能しない。

    さらに、不幸なことに経済事件には殺人事件の凶器に相当する物証がないことも大きい。殺人・傷害事件では、物証が冤罪を防止する機能があるが、経済事件は凶器も血痕もなければ、血液鑑定もできない。

    重要な証憑の「解釈」

    ―― 経済事件における証拠とは何か。

    細野 供述調書、検面調書だ。

    ―― 英米ではどうなのか。証言以外に証拠はあるのか。

    ギブンズ まずは口頭での証言だ。経済事件の場合は、書類や証憑(しょうひょう)類がたくさんあるが、今は電子で残る証拠がもっとも多いと思う。経済犯罪では、パソコンとクラウド上にあるデータが9割以上を占める。

    細野 そうした経済・会計証憑の解釈、意味付けが大事だ。その解釈を、会計のことであれば専門家に聞くべきだ。法律の専門家である裁判所や検察官が会計を分からないのを責める気はない。しかし、聞く耳を持たないのは困る。

    横尾 私の場合も、偽筆以外にも、私が粉飾に関与していないという証拠はかなりあった。例えば、我々がオリンパスの粉飾を知っていれば、我々が運用していたファンドの資金を直接、簿外ファンドに振り込まないとおかしい。しかし、実際にはオリンパスから、本当は存在しない香港の上場会社の株式の購入を指示される形で、オリンパスの粉飾に加担していた香港の証券会社にお金を振り込んだりしている。こうした類いのおかしなものがたくさんあったので、裁判所に見てくれるように訴えたが、いくら言っても聞いてくれなかった。

    弁護士にも問題

    細野 裁判官も検察官も聞く耳を持たないが、一番問題なのは、弁護士だ。クライアントである被告人が要望しているのにもかかわらず、弁護士自身が会計専門家の意見に聞く耳を持たず、経済事件の専門性に基づく犯罪事実そのものを争わない。彼らは犯罪事実を争わず、執行猶予狙いの故意(犯意)ばかりを争っているのだ。

    横尾 私の場合は、弁護士自身が事件の中身を理解していなかった。だから、何回も変えたいと思ったが、勾留中はその弁護士にしか会えないから、変えることができなかった。

    細野 弁護士が立証しないものを、裁判官が自ら勉強して判断することはありえない。

    横尾 私は、最初、有価証券虚偽記載の共犯、次は詐欺、最後はマネーロンダリングの罪に問われた。それぞれ、その分野に強い弁護士はいる。詐欺の時に、M&Aに精通した弁護士がいたら、絶対に勝てたと思う。しかし、検察が次から次に罪を作り上げたら、まかないきれなくなる。そこは、裁判官が常識に基づいて訴訟指揮すべきだ。

    ギブンズ 私は日本の大学の法学部で教えているが、米国と違うと思うのは、日本の教授は法律分野での実務経験がないこと。米国では教える方はまず弁護士資格を持っていて、少なくとも数年間の実務経験がある。対照的に、日本の法学部の先生の中には弁護士資格を持っていない人もいる。医学の世界で、教科書上で勉強しただけで、外科手術をしたこともない人が医術を教えることはあり得ない。そのため、日本の法曹界はリアルワールドとは一線を画した世界になる。判事も検察官もただのIQの高い一般常識の欠けた人ばかりになってしまう。

    低レベルの日本の判決文

    細野 横尾さんの容疑は、粉飾決算のほう助だ。仮に検察の主張通りだったとしても、判決文を読んでみても、どうしてこういう行為が粉飾決算のほう助になるのかさっぱり理解できない。有罪判決を下すためには、本来、「罪となるべき事実」(犯罪事実)と「証拠によりそれを認めた理由」(証拠理由)、及び、適用した法令(法律事実)を示さなければならない。ところが、現在の刑事訴訟法では、証拠理由に変えて、「証拠の標目」だけを示せばよいことになっている。標目とは、目次、目録のことを言う。

    日本は昔からこんなことをやっているわけではない。戦前の刑事訴訟法では、判決文に証拠理由を書き、法廷に提出されたどの証拠のどの部分でどの事実を認めたのかを記載する必要があった。ところが、太平洋戦争が始まると、米軍の空襲により灯火管制で夜は真っ暗になる。裁判官がその中で証拠理由を書くのが大変なので、東条英機内閣の時に「戦時刑事特別法」を作って、「証拠の標目で足りる」という一文を入れた。それが、終戦後も、裁判官と検察官が「あの標目は良かった」ということで今もそのままになっている。そのことをメディアは一切報道しない。

    ギブンズ 日本の判決文にはクオリティーが良くないのがたくさんある。代表的なのは村上ファンドによるニッポン放送株をめぐるインサイダー取引事件の東京地裁の1審判決だ。最初の80㌻はだらだらと事実関係が書いてあり、最後に、唯一の目的は金もうけでありわがままで悪質だとして、2年の実刑判決を下した。こういうロジックの悪さは恥ずかしい。

    細野 先ほどの「特信状況」も戦時刑事特別法に拠る。灯火管制のため法廷で証人尋問をすることができない。だから、検察官の検面調書、警察の取り調べ調書を持って足りるとした。

    本当の共犯は監査法人

    ―― オリンパス事件では、オリンパスの旧経営陣は執行猶予だったのに、なぜ、横尾さんは実刑判決を受けたと思うか。

    横尾 あれだけの大きな事件で、全員が執行猶予になったら、国民が納得しないと検察は思ったのだろう。おまけに検察は追い詰められて次から次に新しい罪を作ったので、引っ込みがつかなくなったのだろう。

    細野 検察による事件の組み立て自体に無理がある。オリンパス事件が粉飾決算事件であったことは異論の余地がない。会計基準に意図的に違反した。オリンパスの経営陣が主導したのも間違いない。会計的にはかなり複雑なしかも20年の長期にわたる粉飾だ。だから、会計のプロが深く関わっていないと絶対にできない。証拠構造上、主犯はオリンパス経営陣、共犯は監査法人というのが自然だ。

    そうあるべき所を、会計のことを何も知らない横尾さんを引っ張ってきた。それは横尾さんが野村証券出身だから、たくさんお金が動いているから、そこを断罪するほうが国民の受けが良いからだ。ゴーンさんもそうだが、日本では能力があってたくさん稼ぐ人はみんな悪いことをしたことになる。

    ―― なぜ、監査法人は追及されないのか。

    細野 監査法人は許認可事業で検察体制の恭順側だから。検察庁、証券取引等監視委員会の天下りがしっかり常駐している。だから、個人としての公認会計士は逮捕されても、法人としての監査法人は問題とされない。

    横尾 ずっと調べていくと、監査法人がオリンパスの粉飾決算を確実に知っていたという傍証に突き当たる。オリンパスは06年から簿外ファンドの解消に向け動き出した。なぜ、このタイミングなのか。実は、元々オリンパスの監査を担当していた旧朝日監査法人が04年に旧あずさ監査法人と合併し、新あずさ監査法人になった。そのことを受け、06年6月から旧あずさ法人の会計士もオリンパスの監査に加わることになった。

    オリンパスの山田秀雄・元副社長は、損失先送り商品の購入など決算対策の方針は、全て旧朝日監査法人に説明して了承を得ていたと証言をしている。ところが、06年6月から何も知らない旧あずさ監査法人が入ってくる。だから、その前の06年3月に簿外ファンドの解消を進めたのだろう。

    特捜部の廃止を

    ―― 改めて、「人質司法」に象徴される司法の問題を解消するためにはどうすればよいか。

    細野 特捜部を廃止することだ。内部統制が機能しないので、必ず冤罪事件が多発する。戦前に特別高等(特高)警察という、左翼学生などの思想犯を拷問して取り締まる機関があった。戦後、GHQが軍国主義の温床だということで解体したが、警察では政官財の癒着構造を摘発できないと言うことで代わりに検察に特捜部を作った。それがロッキード事件で大きな成果を上げ、国民に支持された。しかし、今では政治資金規正法もでき、そんな巨悪はもう存在しない。

    ―― 特捜部の廃止は現実にありうるのか。

    細野 厚生労働省のキャリア官僚だった村木厚子さんを冤罪に陥れた郵便不正事件で、検察は国民の信頼を失っている。今回のゴーン事件で、ゴーン氏が無罪になったら、必ず解体されるだろう。

    ―― 廃止後、経済事件の捜査、摘発はどこがやるのか。

    細野 証券取引等監視委員会であり、警視庁捜査2課だ。1948年の昭和電工疑獄事件の時は、警視庁の秦野章・捜査2課長が指揮を執り、政治家だけでなく、GHQ幹部も摘発しようとした。その後、秦野さんは警視総監や法務大臣にもなっている。世間は証券取引等監視委員会も力がないと言うが、それは摘発をさせないからだ。アメリカの証券取引委員会(SEC)も最初から力があったわけではない。いろいろな経験や失敗を重ねて、強い組織になった。

    ギブンズ 何を刑事事件にするかという見極めもきちんとしないといけない。

    (終わり)


     ■人物略歴

    Stephen Givens

    スティーブン・ギブンズ氏
    スティーブン・ギブンズ氏

     1954年米国出身。76~77年京都大学法学部留学後、82年ハーバードロースクール法学博士。96年西村総合法律事務所(現西村あさひ法律事務所)特別顧問、2001年からギブンズ外国法事務弁護士事務所代表。日本企業に関わる国際間取引の組成や交渉に長年従事。


     ■人物略歴

    ほその・ゆうじ

    細野祐二氏
    細野祐二氏

     1953年生まれ、早稲田大学政治経済学部卒業。78年からKPMG日本およびロンドンで会計監査とコンサルティング業務に従事。キャッツ粉飾決算事件で有罪確定後、会員制「複式簿記研究会」を主宰。著書に『公認会計士vs特捜検察』(日経BP)、『会計と犯罪』(岩波書店)など多数。


     ■人物略歴

    よこお・のぶまさ

    横尾宣政氏
    横尾宣政氏

     1954年兵庫県出身。京都大学経済学部卒業後、78年に野村証券入社。第2事業法人部員、新宿野村ビル支店長などを歴任。98年に「グローバル・カンパニー」を設立し社長就任。オリンパス粉飾事件で実刑が確定し、再審請求に向け準備中。著書に『野村證券第2事業法人部』(講談社)。


     ■人物略歴

    みらー・わくう

    ミラー和空氏
    ミラー和空氏

     1954年、米国ネブラスカ州生まれ。アメリカン音楽大学大学院で修士号を取得後、78年に来日。翻訳会社やPR会社の勤務を経て、88年、編集デザイン会社「ラピスワークス」を設立。現代詩やノンフィクションなどの翻訳も手がける。11年のオリンパス事件の際、解任された英国人社長マイケル・ウッドフォード氏の代理人として、日本の司法・行政当局との交渉を行った。日本の企業統治に関する提言も活発に行っている。

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