2年目を迎えたプロ卓球Tリーグ 認知度向上もカギは会場確保=村田晋一郎
日本初のプロ卓球リーグ「Tリーグ」が8月29日、2年目のシーズン(2019/20シーズン)の開幕を迎える。昨年10月に最初のシーズンがスタートし、まずまずの船出。2年目も20年の東京五輪を前に有力選手が続々と参戦し、話題には事欠かない。しかし、1年目のシーズンではさまざまな課題も浮かび上がっており、Tリーグ定着に向けての勝負の年となる。
Tリーグは現在、トップリーグにあたる「Tプレミアリーグ」に男女4チームずつが参戦。各チームは7回総当たりの21試合ずつ行い、勝ち点の上位2チームが戦う優勝決定戦(ファイナル)でチャンピオンを決める。1年目の18/19シーズンの1試合当たり平均観客数は1300人。試合会場の多くは収用人員2000人の体育館であることを考えると、初年度としてはまずまずの動員だろう。
男子日本代表の張本智和選手や水谷隼選手、女子代表の石川佳純選手、平野美宇選手らトップ選手が出場する試合は、テレビのスポーツニュースで紹介される機会も多く、1シーズンを通しての広告効果は473億円に及んだという。シーズンが進むにつれて、Tリーグの認知度は向上し、人気カードには完売の試合も出た。リーグやチームをサポートするスポンサー企業も徐々に増えてきている。
日本人初の卓球プロ選手で、Tリーグ創設に奔走した松下浩二チェアマンは「行き届いていない部分はあるが、ゼロから立ち上げたことを考えると良いスタートを切ることができた」と胸をなでおろす。スポンサー企業が増えたことで、今後は試合会場の演出を強化したいという。
まだ赤字経営のチームがほとんどだが、スポンサーを獲得しやすくなっている。最後発でチームを立ち上げたT・T彩たま(埼玉県)の柏原哲郎社長は、「スポンサーもファンも常に増え続け、減っている要素は何もない。昨年と今年で違うのは、周囲がTリーグを知っていること」と手応えを語る。
19/20シーズンには昨年と同じ男女4チームずつが参戦し、19年8月~20年2月のリーグ戦の後、3月にファイナルを行う予定。英国やスウェーデンの代表選手が新たに加わるなど、「世界一のリーグ」と呼べる陣容だ。
特に男子は、丹羽孝希選手が琉球アスティーダ(沖縄県)から木下マイスター東京(東京都)に移籍し、張本、丹羽、水谷と東京五輪代表の有力3選手が同じチームにそろった。外国のトップ選手が中心の他チームとの試合は、「五輪前哨戦」として注目されている。
他競技と会場の争奪戦
2年目を迎えるTリーグだが、最大の問題は試合会場の確保が難しいことだ。チームを地域に根づかせてファンを定着させるためには、ホームゲームはホームアリーナと位置づける施設に固定することが望ましい。「ここに行けばTリーグの試合を見ることができる」という施設の確保は生命線だ。
しかし、卓球の試合会場となるような体育館やアリーナは、他のスポーツの大会やイベントで頻繁に使用される。また、実際に使用するには前年までの実績が考慮され、従来開催してきた大会やイベントが優先される。
18/19シーズンは、地元でのホームゲームをすべて同じ会場で開催できたのは、男子の岡山リベッツ(岡山県)のみ(岡山武道館)。その他のチームは地元のホームゲームを複数の施設で開催した。19/20シーズンも地元のホームゲームを1カ所で開催するのは岡山だけだ。ホームアリーナを固定できないことは、リーグの発展にとってもマイナスだろう。
特に集客の見込める土日や祝日に試合会場を押さえることは難しい。結果的に18/19シーズンは、リーグ戦の84試合中36試合が平日の開催となり、平日の観客数が伸び悩んだ。こうした会場の交渉は1年前に始めたのでは遅いという。19/20シーズンは早めに動いたことや前年の実績から、平日の開催は19試合と昨シーズンから大幅に減らした。これにより、松下チェアマンは観客動員数が3割増えると見込んでいる。
こうした会場の問題は今後も付いて回る。松下チェアマンによると、Tプレミアリーグは3年目の20/21シーズンから男女2チームずつ増やし、6チーム制に拡大するという。さらに4年目の21/22シーズンには、Tプレミアリーグを6~8チームとした上で、下部リーグとして「T1リーグ」をスタートさせる意向だ。リーグが拡大し、チーム数が増えると、試合会場の問題もまた大きくなる。
実業団と融合できるか
もう一つの大きな問題が、他のプロスポーツでも見られた既存の実業団リーグとの関係だ。卓球でも実業団チームで構成される「日本卓球リーグ」が40年以上の歴史を有している。卓球を長年サポートしてきた企業でも、それぞれ方針は異なり、プロ化の決断は容易ではない。Tリーグ開幕時に日本卓球リーグから参戦したのは女子の日本生命のみだった。
定期的にTリーグと日本卓球リーグの交渉は行われており、Tリーグは日本卓球リーグに対して、4年目の21/22シーズンまでにTリーグに参入するか否かを決断することを求めている。仮に日本リーグからTリーグに参入するチームが出てきたとしても、ここでも試合会場の問題は生じる。来年には21/22シーズンの準備を始める必要があるため、日本卓球リーグからの参加の決断は、できるだけ早いほうがいい。
Tリーグが抱える問題を大きく好転させるには、地道だがTリーグを盛り上げ、認知度を上げていくことに尽きる。社会的評価が高まっていけば、試合会場の確保が容易になったりし、環境が整うことで日本卓球リーグから参入するチームも増える可能性がある。リーグやチームをサポートするスポンサーは多くが3年契約で、3年目には目に見える結果を出す必要がある。2年目でどこまで進化できるかが、今後を大きく左右する。
(村田晋一郎・編集部)