ヴェオリア・エンバイロメント 世界最大手の水メジャー=児玉万里子/250
◆Veolia Environnement
水道事業を国際展開する巨大企業は「オイルメジャー」(国際石油資本)になぞらえて「水メジャー」と呼ばれる。水メジャーの最大手が、フランスのヴェオリア・エンバイロメント(以下、ヴェオリア)である。ヴェオリアの前身は、1853年にナポレオン3世の勅令で設立されたカンパニー・ゼネラル・デゾー(以下、デゾー)だ。同社は19世紀後半にはパリなどの国内大都市の水道事業を担い、1880年代にはフランス国外の都市へも進出していた。さらに、20世紀前半にかけて、事業内容は水処理サービス全般に広がっていった。
1980年代に欧米で水道事業の民営化が進むとともに、デゾーはさらなる国際化を図っていった。そして、グループ組織の変更、社名の変更を重ねた末に、ヴェオリア・エンバイロメントが誕生したのが2003年である。
環境管理サービスへ
水道事業がスタート以来の中核事業だが、その後、企業買収によって、60年代に廃棄物事業、81年にエネルギー管理事業へ進出した。その結果、今日ではこの三つを事業分野としている。このところ、売り上げでは水道が4割強、廃棄物が4割弱、エネルギー管理が2割を占めている。顧客先は、産業界と自治体がほぼ半々、グローバルに展開しているものの、フランスを中心とした欧州が主要地域となっている。
三つの事業分野のうちの第一の水道事業は、上下水道や工業用水処理施設の分野をカバーしており、浄水場や下水処理場の設計、建設、運転、設備維持管理などを手掛けている。第二の廃棄物事業では、廃棄物の収集、リサイクル、資源やエネルギーの回収など、第三のエネルギー管理事業では、地域内の熱供給、照明の管理、省エネ設備の導入・保全、エネルギーの効率化などを推進している。
これらの事業分野でのヴェオリアのサービス提供の形態はさまざまだ。まずは、顧客設備の建設である。上下水処理のためのインフラ設備の設計・建設が中心であり、設備のリースも手掛けている。また、顧客設備の長期の運営権の取得も進めており、これはコンセッション(民間事業者への運営権売却)と呼ばれる。コンセッションでは、設備の維持管理、設備更新、料金徴収などの運営権を長期間にわたって受託する。たとえば、18年10月には、ウズベキスタンの首都の上下水道事業の近代化設備を25年契約で受託している。
この他に、顧客設備の運用サポートやメンテナンスサービス、あるいは自社設備によるサービスも手掛けている。実際には、異なる事業分野にまたがって多様な形態のサービスを組み合わせて提供しているのだ。
こうしたサービスの割合を投資残高でみると、自社で保有する工場・設備、専門的な装置などをはじめとする設備投資が大きく、コンセッションの運営権投資を上回っている。14年に今日の事業体制が整って以降では、コンセッション投資に比べると設備投資が大きく増えており、自社で先端設備や装置を保有し、それを活用してサービスを提供する方向に注力しているように見える。
ヴェオリアの18年12月期の売り上げは259億ユーロ(約3兆1300億円)にのぼる。同業2番手のフランスのスエズの同年の売り上げは173億ユーロ(約2兆1000億円)にとどまり、売り上げの差はかなり大きい。ヴェオリアの売り上げは、08年に362億ユーロに達していたが、これをピークにその後13年まで急減した。この売り上げ縮小は、公共輸送などのいくつかの事業を売却して事業分野の集中を図ったためだ。14年以降の売り上げは小幅に伸びているが、三つの事業分野の売り上げ構成はほとんど変わっていない。
事業売却で利益減少
13年までの相次いだ事業の売却は、売り上げだけでなく営業利益や営業キャッシュフローも減らしている。ただ、13年あるいは14年を底に、その後はいずれも緩やかながら回復傾向を見せている。売り上げに対する営業利益の比率も、売り上げ構成は変わらない中で徐々に上昇し、18年には5%に到達している。売り上げ、営業利益あるいは営業キャッシュフローの成長のためには、サービスの品質や効率を上げるとともに、コストの削減が必要だ。そのために目下、管理システムのデジタル化に注力している。たとえば、監視システム、スマートメーター(次世代電力計)、AI搭載の廃棄物分別ロボットの開発・導入などにより、データ集積を進めるとともに人件費の削減をめざしている。
ヴェオリアとしては、投資に対して十分なキャッシュフローを確保して、次の事業を展開していくことが重要だ。同社が投下した資金(たとえば、有利子負債と自己資本の合計)に対する営業キャッシュフローの比率は、01年以降ほぼ毎年10~15%で安定している。追加投資がないと仮定し、金利の要素を考慮に入れないとすると、7~10年で投資を回収できる水準だ。投資や資金の回収のパターンの異なるサービスを組み合わせて提供しているにもかかわらず、最終的な営業キャッシュフローは管理されている。
世界の資源を管理する
今日、ヴェオリアは「環境管理サービスを通じて世界の資源を管理し最適化を図る」ことを目的として掲げている。最近でも、フランス初の太陽光パネルのリサイクル工場の建設、プラスチック廃棄物処理を含めた大手食品メーカーとの提携などの新たな動きが見られる。同社は「水メジャー」と呼ばれているが、今日では、水関連のサービスにとどまらず、幅広い環境管理サービスを目指しているようだ。
(児玉万里子・財務アナリスト)
浜松市の下水道施設運営 企業連合で20年間
ヴェオリアは日本国内にも進出している。同社が中心の企業連合が浜松市の下水道施設の一部の運営権を受託し、2018年4月から事業を開始した。施設の所有権は浜松市が保有するが、20年間の施設の運営権は企業連合が取得し、その対価として25億円が市に支払われる。このケースでは、利用者からの料金徴収は浜松市が行い、その一部が企業連合へ支払われる形だ。
運営権の民間委託は「コンセッション」と呼ばれる。個別の業務(たとえばメンテナンスや料金徴収)を外部に任せる業務委託とは異なり、設備の運営・保全を丸ごと委託するのだ。これは、16世紀ごろからフランスで運河、鉄道、道路、橋梁(きょうりょう)、上下水道、ガスなどの施設の運営に用いられてきた方式だ。
コンセッションになじみの薄かった日本でも空港、有料道路などで採用され始めている。ただ、水道事業のコンセッションは、浜松市のケースが日本初である。
(児玉万里子)
企業データ
本社所在地=フランス・パリ
CEO=アントワーヌ・フレロ(Antoine Frerot)
総資産=375億9300万ユーロ
純資産=71億4400万ユーロ
売上高=259億1100万ユーロ
営業利益=13億400万ユーロ
当期純利益=4億3900万ユーロ
従業員数=17万819人
上場取引所=ユーロネクスト・パリ証券取引所
(注)財務数値は2018年12月期