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8両編成化 目黒線・三田線・南北線は3年 つくばエクスプレス10年の明暗=枝久保達也

8両編成化が決まったつくばエクスプレス
8両編成化が決まったつくばエクスプレス

 東京急行電鉄と東京都交通局、東京メトロ、埼玉高速鉄道は今年3月、現在6両編成で運行している東急目黒線、都営三田線、東京メトロ南北線、埼玉高速鉄道線を2022年度上期から一部を8両編成化すると発表した。一方、やはり6両編成で運行しているつくばエクスプレス(TX)も今年5月、8両編成化すると発表したが、実施されるのは10年以上先の「30年代前半」。いずれも混雑緩和が目的だが、実現する時期には大きな差が生じている。

 車両の長編成化は容易なことではない。ホームは基本的には走行する車両と同じ分の長さと余裕分しか確保していないので、6両編成対応のホームを8両編成に対応させるためには、2両分のホームを新たに確保しなければならない。それに伴い信号やポイントの移設、折り返し線・車庫などの線路の延長も必要になる。だが、都心の駅は土地の余裕がなく、用地買収が必要であったり、踏切に挟まれたホーム延長のために道路を移設したりすることも珍しくない。

 特に地下駅の大規模改良工事は、駅の構造によっては10年以上の歳月を要する。そのため輸送力増強はまず増発で対応し、それでも対応できない場合だけ長編成化が行われる。

相鉄と直通運転へ

 東急など4社が8両化に踏み切るのは、混雑緩和と同時に相模鉄道との直通運転を見据えている。相模鉄道は今年11月にJRとの相互直通運転を開始し、22年度下期には東急東横線や目黒線との直通運転も始める予定だ。実は、目黒線、南北線、三田線、埼玉高速線は、相鉄との直通運転とは別に、もともと8両化を想定している。地下駅のホームや車庫・折り返し線は、2両分追加できるスペースをあらかじめ確保した構造のため、短期間で対応が可能である。

 8両化の準備は、三田線が1968年の開業時から東武東上線と直通運転(後に計画中止)を見据えて8両編成分のホームを用意していたことに始まる。その後、85年に南北線の建設と三田線の延伸、目黒線との直通運転実施が決定すると、88年に「直通列車は8両編成」とする覚書が関連する事業者の間で交わされた。しかし、91年から順次開業した南北線は、 バブル崩壊とその後の景気低迷で利用者が伸び悩む。

 南北線は00年に全線開業し、東急目黒線との直通運転も始まったが、その2年前には当面の間、各社ともに6両編成のままとし、8両編成化の時期については需要動向を考慮して改めて決定することとされた。東急と都交通局は覚書通りに8両化を主張したと言われている。00年度の三田線の1日当たりの利用者数は47万人だったのに対し、南北線は当初想定の3分の1に過ぎない約20万人で、01年開業の埼玉高速鉄道も厳しい経営が予想されていたことが大きかったのだろう。

 南北線の全線開業から20年近くが経過し、南北線の利用者数は現在、55万人、三田線は65万人を超えた。相鉄との直通で利用者のさらなる増加が見込まれることから、ようやく8両化が実現するというわけだ。

工事は1日2~3時間

(出所)編集部作成
(出所)編集部作成

 東京・秋葉原と茨城県つくば市を結ぶTXも、92年に作成した事業基本計画で、当初00年を予定していた開業時に1日当たり約47万人、10年度に約57万人を見込み、開業時は8両編成、将来的に10両編成に増強するとされていた。ところが着工の遅れにより、建設費が8000億円から1兆2000億円まで膨れ上がったため、開業を05年に延期したうえで、需要予測は10年度に約38万人、20年度に約49万人まで下方修正し、6両で開業することになった。

 TXを運営する首都圏新都市鉄道によれば、開業時点での計画見直しで10両編成の構想はなくなったが、将来的な8両編成化に対応できるよう、駅周辺にホーム拡張のスペースは確保したという。さらに開業前に行った需要予測では05年度は約13万人、10年度は約27万人と再度下方修正され、8両化の実現すら危ぶまれていたが、TXの経営は想定以上に順調に推移した。

 09年度に利用者数約27万人と単年度黒字化を達成すると17年度に累積赤字を解消、19年度の利用者数は37万人にまで達している。首都圏屈指の混雑路線となったTXは、開業以来輸送力増強を繰り返し、20年春に現在の朝ラッシュ時間帯ピークに22本から25本への大幅な増発を実施する。これにより、混雑率は現在の約170%から155%まで改善するが、沿線人口が30年代まで増加し、再び混雑率の悪化が想定されていることから、抜本的解決として編成の8両化を決断した。

 ホーム拡張のスペースは確保してあるにもかかわらず、なぜ8両化は10年以上も先になるのか。首都圏新都市鉄道によれば、スペースはあってもホームを土台から作らなければならず、工事が可能なのは終電から始発までの2~3時間と限られる。それも、日常的な保守・修繕作業と並行して進める必要があり、現在ホーム拡張工事を進めている秋葉原駅では、完成まで2年ほどかかるスケジュールとなっている。

延伸構想も影響?

 ただし、背景にはそれ以外の事情もありそうだ。首都圏新都市鉄道の財務諸表によれば、19年3月期は40億円の最終(当期)利益を計上したものの、長期未払い金は5352億円、長期借入金は1252億円と多額の負債を抱える。 8両編成化には設備工事だけで360億円を見込み、新たな車両も調達しなければならない。開業15年を迎えて設備の更新・修繕箇所も増えてくる時期だけに、設備投資はできるだけ平準化させたいという思惑はあるだろう。

 さらに今年4月、東京都が臨海部と銀座、東京駅をつなぐ新しい地下鉄路線「中央区臨海部地下鉄構想」を整備する方針を固めたと報じられたことも影響していそうだ。国土交通省の交通政策審議会も16年4月、TXを東京まで延伸した上で、臨海部への地下鉄と一体整備することを答申しており、 早ければ30年代前半に開業することもありうるとすれば、TX8両編成化の完成時期と符合する。

 相鉄と東急目黒線の直通の例でも見たように、近年の長編成化は他路線への直通開始に伴う車両規格の統一と、輸送需要の変化に対応するために実施されている側面が強い。あながち絵空事とは思えない。

(枝久保達也、鉄道ライター・都市交通史研究家)

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