経済・企業

再エネ・農業で証券業を補完 中田誠司・大和証券グループ本社社長

大和証券グループ本社社長 中田誠司
大和証券グループ本社社長 中田誠司

Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 2019年3月期の連結最終利益は前年同期比4割減でしたが、原因は何だと考えていますか。

中田 顧客の変化に対応できていない部分があったと思っています。株や投資信託の売買という伝統的な証券ビジネスだけでなく、資産相続などのニーズが高まっているのに、うまくマッチできていなかった。17年10月から75歳以上のユーザーを専任で担当し、相続に関する相談に乗る「あんしんプランナー」を70店舗に配置していますが、来年4月には全店に拡大することを目指しています。また、顧客本位を推奨するため、営業員の評価にも、顧客の運用損益を反映させるようにしました。

── ユーザーにどれだけもうけさせたかで評価すると。

中田 そうです。もちろんマーケットが下がっているときにもうけるのは難しいので、相対的な評価にはなります。今は、評価の一部ですが、将来的には顧客パフォーマンスの比重は高くなっていくと思います。営業員も評価を上げるには顧客満足度を重視しないといけなくなります。

営業所は増やす

── 20年度までに300億円の収支改善に取り組む計画ですが、具体策は。

中田 まず、150億円のコスト削減を、不採算ビジネスの見直しや、営業店の効率化、販管費カットなどを積み上げて実現します。117カ所ある支店は3~4年かけて、商圏の重なる支店を10店舗くらい統合するつもりです。一方、営業員5人程度の小規模な営業所は逆に増やします。今年3月末の43カ所から10月末には48カ所にし、3~4年で新たに大都市圏を中心に計20カ所程度増やし、これまでカバーできていなかったエリアに対応します。大規模支店を統合して事務機能を集約する分、小さな営業所は増やしてエリアカバー率を上げることで、コストを下げて収益を増やします。

── 残りの150億円の収支改善は。

中田 こうした営業店機能の効率化や本社・本部機能のスリム化で、約400人の人員を捻出し、新事業や「あんしんプランナー」、コンサルティング業務といった生産性の高い分野に振り向け、売り上げを150億円増やします。

── 生産性の高い新事業とは。

中田 国内外の再生可能エネルギー事業への投融資をする「大和エナジー・インフラ」を昨年7月に設立しました。今後20~30年、間違いなく成長する分野で、新事業の核と思っています。太陽光やバイオマスといった再生可能エネルギーの発電所への投資のほか、空港や航空機、港湾といったインフラ投資も扱い、安定的に収益が入るビジネスになっています。

作付け回数が4割増

── ベビーリーフ栽培など、農業にも進出していますね。

中田 昨年11月に設立した「大和フード&アグリ」は、耕作放棄地や小規模農家を集約し、アグリテック(ITを活用した農業技術)を導入してハウス栽培の効率性を高めます。実際、熊本県で農地を買い入れてベビーリーフを栽培したところ、年間の作付け回数が10回から14回に増えました。収穫が安定し、大手の販売先を確保できれば、キャッシュフローも安定するので証券化して販売することもできます。福岡県でイチゴも始めようと思っています。収益が上がるには時間がかかるし、大きくもうかるビジネスではないですが、高齢化が進む日本の農業の課題解決にもつながります。

── なぜこうした異業種に参入しているのですか。

中田 伝統的な証券ビジネスも伸ばしますが、どうしても市場環境に左右されます。市場動向の影響が小さく、かつ証券ビジネスのノウハウが使える業種を増やして補完する「ハイブリッド型総合証券グループ」を目指しています。

── 収益拡大に向けては、日本郵政グループとの提携も5月に発表しましたが内容は。

中田 投資一任業務で協業していくことを合意しました。顧客からまとまった資金を預かり運用を任せてもらう一任型投資信託「ファンドラップ」を、全国の郵便局やゆうちょ銀行のネットワークで販売してもらうことを検討しています。相続ビジネスでも協業できたらとお互いに話しています。

── 来春にネット取引に特化した新子会社CONNECT(コネクト)の営業開始を目指していますが、勝算は。

中田 手数料を業界最安値にし、主に投資未経験の20~30代を新規顧客として開拓します。投資経験者を中心とする既存のネット専業証券とは狙う客層が異なるし、対抗しようと思っているわけではありません。コネクトは、伝統的証券ビジネスをコアとした「ハイブリッド型」のビジネスモデルの一つに過ぎず、あくまで全体で収益性の向上を図っていきます。

(構成=岡田英・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 事業法人部で、いろいろな企業を担当し、朝から晩まで仕事に熱中していました。土日も取引先とゴルフをし、仕事中心の生活を送っていました。

Q 「好きな本」は

A 歴史小説が好きで、吉川英治『私本太平記』は何度も読み返しました。

Q 休日の過ごし方

A 妻と街の散策をしています。東京都内を2時間くらい歩き、おいしいB級グルメの店を見つけて食事して帰ったりすることもあります。


 ■人物略歴

なかた・せいじ

 1960年生まれ。東京都出身。早稲田大学高等学院卒業、83年早稲田大学政治経済学部卒業、大和証券入社。大和証券エスエムビーシー事業法人営業部長、エクイティ部長、商品戦略部長を経て、2007年大和証券グループ本社執行役。09年常務執行役、15年専務執行役、16年副社長に就き、17年4月から現職。59歳。


事業内容:証券ビジネスを中核とする投資・金融サービス業

本社所在地:東京都千代田区

発足:1999年4月

資本金:2473億9700万円(2019年3月)

従業員数:1万5196人(19年3月、連結)

業績(19年3月期、連結)

 営業収益:7205億8600万円

 経常利益:831億5900万円

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事