アフリカは2050年に25億人の大市場 投資が進まず焦る日本=市川明代
外務省が「300億ドル」のつじつま合わせに躍起になっているらしい──。
第7回アフリカ開発会議(TICAD7)の開催を1カ月後に控えた7月下旬、関係者の間でそんなうわさが広がった。「300億ドル」とは、安倍晋三首相が3年前のTICAD6で今後3年間に実現させると表明した、官民による対アフリカ投資額のことだ。
TICADは日本が世界最大の政府開発援助(ODA)拠出国だった1993年から、アフリカの発展について考える目的で、国連や世界銀行と共同で開催してきた。日本が主導権を握ることで、アフリカにおけるプレゼンスや国際評価を高める狙いがあった。
2000年代に入ると外務省は「支援からビジネスへ」というキーワードを盛んに口にし始める。財政状況の悪化でODA予算が大幅に削減され、民間投資に期待せざるを得ないという台所事情からだ。「300億ドル」の表明の背景には、アフリカへのインフラ投資を拡大させる中国への強い対抗意識があったとされる。ODAの増額が望めないなか、政府は経済界に対し、しきりに投資を促してきた。
先進国の経済が停滞し、新興国の成長も鈍化するなか、伸びが期待できるのはアフリカしかない。アフリカの人口は50年には世界人口の4人に1人にあたる25億人に達する。企業にとっても、この市場をとらえられなければ未来はない。
だが、日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、日本の対アフリカ直接投資残高は横ばいで、16年末は99億ドル、18年末は87億ドルと、「300億ドル」の表明後も伸びていない。世界の対アフリカ輸出額はこの15年で4・0倍に膨らんだが、日本は1・5倍で、中国(17・8倍)はもちろん、米国、ドイツ、韓国(各2・5倍)と比べても見劣りがする。なぜ、日本企業の投資は進まないのか。
長期の視野と官民連携を
昨年、即席麺大手の日清食品ホールディングスが、アフリカから静かに撤退した。08年から国際貢献でケニアに関わり、地元大学と合弁会社を設立。現地の食習慣に合わせた焼きそばタイプの袋入り乾麺に、現地の人々の好む味を付け、13年から売り出した。ケニアの即席麺需要が年間4000万食から、19年には2億食に膨らむという試算があった。
売り上げは伸びなかった。業界団体の調査では需要そのものが横ばいで、広報担当者は「栄養価を考え、高付加価値にこだわったことで、やや高めの価格設定になったが、それが問題だったとは考えていない。アフリカでは、食べ方を含めて根付かせていくぐらいのことをしないと厳しい」と話す。
日本企業のアフリカにおける拠点数は年々、増えているが、一方で、商機を見いだせず進出を断念する企業や撤退する企業がいくつもある。商社系シンクタンクでの勤務経験のある白戸圭一・立命館大学教授は「アフリカは、人口は増えていても、貧困層がいまだ7割を占める。『高付加価値』を得意とする日本企業が入り込める余地は限られている」と指摘する。
広島県の精米機メーカー「サタケ」は、ODAによる食糧増産援助事業を足がかりに、70年代から安価な精米機をアフリカへ輸出してきたが、中国メーカーとの競合で頭打ちに。今後、受注生産型の高機能な大型精米プラントを標準化して1億円程度に抑えた商品を売り出す。ただ、アフリカは稲作の生産性が低く、サタケの精米プラントが浸透する東アジア諸国のように大量のコメを集められない地域が多いため、どれだけ受け入れられるか未知数だ。担当者は「精米の歩留まりを上げれば、将来的に大きな利益が出るということを地道に啓蒙(けいもう)したい」とし、「官民の増産支援で底上げを図ることが欠かせない」と話す。
外務省はTICADを前に「資本力で中国にかなわない分、量より質で勝負する」と強調する。アフリカの発展に貢献しつつ、未来の巨大市場にどこまで食い込めるか官民双方の力量が問われる。
(市川明代・編集部)