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アフリカの小国モーリシャスの大構想 「日本の技術」誘致し大陸自由貿易圏をけん引=野村修一

    アフリカの漁港にはいまだ低温物流のシステムがない(モロッコ・アガディール漁港)(筆者撮影)
    アフリカの漁港にはいまだ低温物流のシステムがない(モロッコ・アガディール漁港)(筆者撮影)

     インド洋に浮かぶ人口130万人の島国モーリシャスは、世界有数のリゾート地だ。オランダ、フランス、イギリスの植民地となった歴史から国民はフランス語と英語を操る。

     観光業だけではない。繊維をはじめ工業も盛んで、国民1人当たりの国内総生産(GDP)は1万1281ドル(18年、IMF)と、アフリカ内で2位の水準だ。特筆すべきは“ビジネスのしやすさ”。電力事情や資金調達環境などの指標に基づく世界銀行のビジネス環境ランキングで、190カ国中20位(日本は39位)である。ただ、同国は日本との関係が薄く、日本に大使館すらなかった。

     それが今、大きく変わろうとしている。この8月、日本と経済分野での連携を強めるべく、企業の誘致活動を行うための事務所を東京都内に新設したのだ。

    「低温物流」で日本に期待

     モーリシャスが日本企業に大きく期待するのは、豊富な資源に恵まれながら、それを生かしきれないアフリカ特有の問題を解消する、優れた産業技術の導入である。

     例えば、水産物の産地から消費地まで冷蔵・冷凍の状態を保ったまま流通させる仕組みである「コールドチェーン」はその一つだ。

     アフリカは、地球1周の3分の2に相当する2万6000キロの海岸線総延長を有する。だが、コールドチェーンの整備が遅れ、豊富な水産資源が有効活用されていない。魚市場に水揚げされたばかりのマグロが、灰色に変色して売られている。アフリカでシーフードレストランに行かれた方はお分かりかと思うが「臭う」のである。

     ここで必要とされるのが、日本の技術だ。現在の凍結方法では、魚の細胞膜が破壊されてうまみ成分が流れ出す「ドリップ」が起こりやすいが、船上で急速凍結する技術を取り入れれば鮮度を長く保てる。傷みやすく、アンチョビ缶にするか肥料用に加工する以外に選択肢がなかったイワシも、低温物流が実現すれば刺し身用として市場に高値で卸すことができる。

     モーリシャス政府は、2020年までの国家予算にアフリカ・水産卸売市場の創設を盛り込んだ。ITによって捕獲から販売まで取引の透明性とトレーサビリティー(流通履歴の管理)を徹底し、持続可能な「ブルーエコノミー」(海洋資源を活用した経済)を構築する。「計画には日本のコールドチェーン技術の導入が不可欠」という。

     日本のコールドチェーン技術はアフリカで生のまま流通している食肉や農産加工食品にも活用できる。温度変化の影響を受けやすいワクチンや血液製剤をアフリカの内陸や島嶼(とうしょ)地域の医療機関へ届けるのにも役立つだろう。

     日本企業の誘致で陣頭指揮を執るのは、モーリシャス経済開発庁長官のフランソワ・ギベール氏。多国籍外資企業のアジア統括としてシンガポールに10年間駐在し、5年間は経済開発庁取締役会のメンバーも務めたフランス人だ。

     彼はシンガポールで、15年末の東南アジア諸国連合(ASEAN)経済共同体(AEC)設立を前に、日系企業が地域統括会社を相次いで作るのを見た。18年のアフリカのGDP総額は2兆3000億ドル(IMF)で、ASEAN自由貿易地域(AFTA)創設6カ国の総額に比肩する。企業が地域統括を置く価値は大きい。

     モーリシャスは、国家戦略として金融とITを融合したフィンテックやICT(情報通信技術)、医薬品・医療機器製造などを重要投資誘致対象と位置づけ、最大8年の免税措置を含むさまざまな誘致策を導入している。アフリカの多くの国に残る外国為替管理や外資事業規制もない。格付け機関のムーディーズからスペインなどと同じ「Baa1」の格付けを与えられている。あと1ノッチで「シングルA」。アフリカの国の多くが「ダブルB」以下(投資不適格)に区分されるなか、安定性が際立つ。

     その姿は、アジアの金融ハブであり先端技術の集積地でもあるシンガポールと酷似する。同国がASEANにおける地域統括・金融統括の地位を確固たるものにしたのは、政治的・経済的安定性だ。いずれの格付け機関からも最上位の格付けを得ている。その点でギベール氏はさしずめ、モーリシャスを「アフリカのシンガポール」にするためのプロの請負人と言える。

     アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の発足を機に、モーリシャスはアフリカ全土の成長を取り込み、地域経済のけん引役を果たしていくだろう。

    (野村修一・デロイトトーマツコンサルティング執行役員)


    エチオピア大統領の危機感 農業から製造業へ転換狙うも外資・周辺国との競争で苦境に

     アフリカ連合(AU)がアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の正式発足を発表したその翌週、筆者はエチオピアのサヘレウォルク・ゼウデ大統領にインタビューした。

    「我々は変わらなければ」と話すゼウデ大統領(筆者提供)
    「我々は変わらなければ」と話すゼウデ大統領(筆者提供)

    「アフリカは今後、コーオペティションの時代に突入する。我々は変わっていかねばならない」とゼウデ大統領は語った。コーオペティションは、「コーオペレーション(協調)」と「コンペティション(競争)」の合成造語だ。

     エチオピアの2018年までの10年間の実質GDP平均成長率は9.9%。人口はナイジェリアに次ぐ約1億992万人(18年)で国民1人当たりのGDPは853ドル(IMF)と、いまだ貧困状態から抜け出せていない。少ない人口で富を稼ぎ出すモーリシャスとは対照的だ。

     政府は農業から製造業への産業構造の転換を図ろうとしているが、製造業のGDP比率は5.8%(18年)で、サハラ以南のアフリカ全体の10.3%と比べても低い。国内を走る車の85%は輸入中古車だ。将来の巨大市場を狙う中国や韓国、フランスの大手自動車メーカーは、主要部品を輸入して組み立てるセミノックダウン(SKD)生産の拠点を置く。こうしたなか、国営自動車メーカーは、自動車のみならず自転車・二輪車、バス、戦車まであらゆるクルマを製造しているが、生産効率は低く苦境にあえいでいる。

     AfCFTAは将来的に参加国の関税を大幅にカットする目標を掲げる。エチオピアにとっては、市場が大きく広がる一方で、周辺国に市場を食われるリスクも生じる。ゼウデ大統領は「一つの国で、何もかも製造するのは現実的でない。モデルを集約し、強みをつくる必要がある」と述べ、最後に「エチオピアは、アフリカと共に成長していく」と強調した。

    (野村修一)

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