経済・企業

編集長インタビュー 猪野薫 DIC社長

    猪野薫 DIC社長 (撮影=武市公孝:東京都中央区の本社で)
    猪野薫 DIC社長 (撮影=武市公孝:東京都中央区の本社で)

    インキと顔料、色彩の化学メーカー

     Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ── DICの旧社名が大日本インキ化学工業(2008年社名変更)と知る読者は多くないかもしれません。今の事業構成を教えてください。

    猪野 印刷用インキ、顔料、合成樹脂が収益の3本柱です。この3領域で営業利益の約8割を上げています。祖業は印刷用インキですが、原料は顔料と合成樹脂です。そこを起点にさまざまな事業に派生していきました。

     世界シェア首位のインキ事業の営業利益は、10年前には全体の47%を稼いでいましたが、現在は27%に低下しています。残り7割はインキ事業以外の事業で稼いでおり、液晶ディスプレーに使われる液晶材料やカラーフィルター用の顔料といったエレクトロニクス関連や、自動車のエンジン周辺に使われる樹脂など収益源を多様化しています。

    ── インキに対する世界的な需要は落ちているのですか。

    猪野 用途としては食品包装などのパッケージ用と出版用に大きく分けることができます。出版用は年々需要が縮小していますが、包装に印刷するインキは確実に伸びていくと見ていて、世界で年率2%程度の需要の伸びを見込んでいます。

    ── パッケージ用でのDICの強みはどこにあるのでしょうか。

    猪野 パッケージ製造に必要なフィルム、インキ、接着剤をすべて手掛けていることです。溶剤を使う揮発性物質のインキは、そのままだとプラスチックのフィルムを通過してしまうのですが、当社はフィルムの内側に染み込んでいかない技術を持っています。接着剤は外側の空気や水蒸気をパッケージの中に通さないようにする機能があります。食品メーカーにとってはパッケージは単なる包装材料ではありません。中身の食品の鮮度を保ち賞味期限を延ばすことができるので、食材廃棄の削減に貢献します。

    顔料は化粧品にも

    ── インキ以外の事業の状況はどうですか。

    猪野 カラーフィルター用の顔料はドル箱になっています。フィルターを構成する3色(赤、青、緑)の緑の顔料は世界シェアで8割超、青は5割超です。ただ、赤だけは他社の特許に阻まれて高いシェアは取れていません。

    ── 顔料は資生堂の化粧品にも使われているそうですね。

    猪野 一つの成功例だと考えています。顔料は化学合成で作るので必ずしも皮膚に良いわけではありませんが、悪影響を与えないような特殊なコーティング(塗布)技術を持っており、各国の安全性基準を満たす顔料を供給できることが当社の強みです。以前なら顔料が使われるのは口紅やアイシャドーなど色を付ける用途に限られていましたが、いまではスキンケアのような化粧品にも当社の顔料が入るようになりました。

    ── 自動車用に使われる高機能樹脂(PPS)で高いシェアを持っています。

    猪野 現在は競争が激しいですが、世界トップシェアです。クルマのエンジン周辺の金属部品の代替に使用されます。金属に比べ軽量化ができるので、燃費向上につながります。当社のPPSは耐熱性や成形後の寸法のずれが非常に少ないといった強みがあると自負しています。

    ── プラスチックごみの削減が世界的な課題になっています。

    猪野 大きな方向性として欧米はリサイクルを志向しています。生分解性(微生物の働きによって水と二酸化炭素に分解されること)のあるプラスチックでも、色を付けているインキはリサイクルする際に邪魔になります。この課題に対応するため、当社はプラスチックから剥がれやすいインキと、剥がれたインキが土に返って無害化する「コンポスト化」の技術開発を手掛けています。プラスチックに付いた色を剥がす技術は、一部はできていますが、この点は研究課題です。

    過去最大の買収

    ── 19~21年の3カ年の中期経営計画ではM&A(合併・買収)を含む戦略投資枠として2500億円を設定しています。

    猪野 既存事業の質的拡大と新事業を増やして新しい経営の柱を築くための先行投資を行い、同時に、財政状態の健全性を保つことも考えた金額です。

    ── 8月29日には、ドイツの化学最大手BASFの顔料部門買収(9億8500万ユーロ=約1162億円)を発表しました。

    猪野 当社にとって過去最大の買収案件です。中計では25年の収益目標も併せて掲げており売上高1兆円、営業利益1000億円を目指しています。今回の買収はこの目標を早期に達成する上での重要な戦略です。補完性が強い買収と考えており、今後はグローバルにおける顔料供給のリーディング企業の地位を固めていきます。

    (構成=浜田健太郎・編集部)

    横顔

    Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

    A インドネシア、シンガポールに赴任しました。管理部門を統括していましたが、異文化を許容するビジネスを実感しました。

    Q 「好きな本」は

    A 司馬遼太郎の『竜馬がゆく』ですね。世界を見続けた前向きな人生に魅力を感じます。

    Q 休日の過ごし方

    A ゴルフに行くか、そうでないときには自宅で本を読むかアコースティックギターを弾いています。


     ■人物略歴

    いの・かおる

     1957年生まれ。千葉県立船橋高校卒業、早稲田大学政治経済学部卒業。81年大日本インキ(現DIC)入社、2012年執行役員、16年取締役常務執行役員を経て18年1月から現職。千葉県出身。61歳。


    事業内容:印刷インキ、顔料、合成樹脂などの製造・販売

    本社所在地:東京都中央区

    設立:1937年3月

    資本金:966億円

    従業員数:2万620人(2018年12月末、連結)

    業績(18年12月期、連結)

     売上高:8055億円

     営業利益:484億円

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