資源・エネルギー災害に強い分散電源革命

地域自立の発送電システム 大規模停電にも耐性=山家公雄

3月12日夜の衛星写真(米海洋大気局=NOAAが撮影・公開)では、六ヶ所村だけ明かりがついているのが分かる(全国地球温暖化防止活動推進センターホームページより)
3月12日夜の衛星写真(米海洋大気局=NOAAが撮影・公開)では、六ヶ所村だけ明かりがついているのが分かる(全国地球温暖化防止活動推進センターホームページより)

 2011年3月11日の東日本大震災では、青森県でも大規模停電が起きた。停電で真っ暗になった下北半島一帯で、ポツンと明かりがついている衛星写真が話題を集めた。光源は青森県六ケ所村にあるスマートハウス6軒。同村には大手電力会社の送電網である「系統」運用に頼らない自立型の電力システムが構築されており、地元風力発電所から受電したスマートハウスが停電を免れたのだ(76ページ写真)。

特集:分散電源革命

 世界的に気候変動が激しくなり、日本でも、豪雨や台風による災害が甚大化してきている。発電所・送配電網ともに余裕をもった設備を形成し、めったに停電が生じなかった日本であるが、ここ数年大規模停電が珍しくはなくなっている。東日本大震災による東日本一帯におよぶ大停電、18年の北海道胆振東部地震時の道全域に及んだ大規模停電(ブラックアウト)と、それまでは考えられなかった事象が生じた。豪雨、台風の影響による停電の頻度が増しているのに加えて、どこでも起きるようになってきている。これまでの停電は主に九州、関西、中部の西日本で発生してきたが、今年は強大な台風15号が関東地方に上陸し、多数の送配電設備が倒壊・損傷し、千葉県は長期間にわたる大停電となった。

 大規模発電所・広域送電網による従来型系統は、広域を効率的にカバーするが、停電が伝播(でんぱ)する懸念もある。限られた地域内において、再生可能エネルギーなど中小規模の分散型電源(DER=Distributed Energy Resources)で発電し、地域内の送配電網(自営線)で自立的に電気を供給する分散型システムは、緊急時にも対応できる。分散型システムは、従来型系統との役割分担を担うことが期待される。

(出所)日本風力開発資料より編集部作成
(出所)日本風力開発資料より編集部作成

東日本大震災時にも

 分散型電源として、最も分かりやすいのは、屋根置き太陽光発電の利用である。インフラ未整備である途上国では、自宅の屋根や敷地に太陽光パネルと蓄電池を設置し、オンサイト(発電地と消費地が同じこと)で独立したシステムを構築する。パネル価格、蓄電池価格の低下により実現が可能となってきている。電力供給量に制約があるが、電灯、携帯電話の充電、テレビなどの必要最小限の需要は賄える。筆者は乗馬目的でモンゴルに出かけるが、ステップ地帯に点在する住居(ゲル)は、そうしたエネルギーシステムだ。

 屋根置き太陽光が停電時に有効であることは、北海道ブラックアウトで証明されている。ソーラーパネルは、自立運転モードにすれば停電時の利用が可能となる。ソーラーシステムのインバーターが許容できる出力に限られるが、必要最低限の供給は可能となる。太陽光発電協会のアンケート調査によれば、ソーラーパネル設置住居の85%が自立運転モードに切り替え、冷蔵庫、炊飯器、携帯充電などに利用していたことが分かった。蓄電池を組み合わせれば、2日間は普段通りの生活ができた。

 オンサイトを超えて、コミュニティーや小規模エリアで自立運用できる電力システムも既に実例がある。

 冒頭で紹介した青森県六ケ所村のケースは、約20年前に創業した「日本風力開発(以下、日風開)」が建設した蓄電池併設の大規模風力発電所(34基、発電容量5・1万キロワット)によるものだ。風力発電、蓄電池、自営線を組み合わせたネットワークだ。風任せの風力発電を蓄電池で制御することで、火力発電並みに、需給に応じて出力を調整できる柔軟運転や、一定出力運転が可能となった。

 08年の北海道洞爺湖G8サミットでは、六ケ所村二又風力発電所から東北電力の送電線を利用し、青森市内のホテル青森で行われたエネルギー大臣会合に風力由来100%の電力を送電した。

 10年にはトヨタ自動車、日立製作所、パナソニック電工と組んでスマートグリッド実証事業を開始。風力発電所から住宅地まで8キロメートルの自営線とスマートハウスを整備・建設した。その上で、発電所の大規模蓄電池、自営線付随の中規模蓄電池、家庭やPHV(プラグインハイブリッド車)の小規模蓄電池を用いて、自立した需給調整を行っている。東北電力からの受電は一切ない。開始して半年後に東日本大震災が起きたのだが、これらのスマートハウスが停電を免れたのは既述の通りだ。

 その後、自営線は村の重要施設(庁舎、公民館、給食センター、小中学校など)まで2キロメートル延長された(延長分は村が所有)。これらの施設は通常は東北電力系統から受電するが、災害などで不通になった場合には自営線で自立運用することになった(図1)。

 水力・火力を含む電源は、一度止まってしまうと、再度起動するのには、一定程度のパワーがあり制御可能な「種火」が必要だ。種火としては通常水力発電が利用される。再エネも同様であり、この種火として電力会社から系統経由で火力や水力発電所の電力の供給を受ける「他励式」が一般的だ。しかし、他励式では、系統トラブル時には受電できず、再エネ発電の再起動ができないリスクがある。そこで、日風開は、風力発電所に併設した蓄電池でためた電気を種火に使い、自ら再起動できる「自励式」に切り替えた。これにより、災害時の安定度が増し、平常時でも系統運用に頼ることなく自立運転できることになった。平常・非常時双方で自立運用できるということは、電気の地産地消システムが確立されたことを意味する。

(出所)経済産業省資料より編集部作成
(出所)経済産業省資料より編集部作成

 既存の系統と接続して、自立システムを構築するのも選択肢だ。このシステムでは、非常時には系統運用がダウンして停電した施設へ電力を供給することも可能だ。この事例としては、トヨタ自動車グループと東北電力との協力で構築される宮城県大衡(おおひら)村モデルがある(図2)。トヨタ自動車東日本などトヨタグループ(以下、トヨタ)は、入居する第二仙台北部中核工業団地に立地する事業者・工場で自家発電・自家消費のための組合を作り、ガス火力コージェネレーション(熱電併給システム)、太陽光発電、蓄電池によるシステムを構築している。

電力会社系統と接続

 組合の自営線と東北電力系統は接続している。通常は、組合が自家発電した電力を団地内の工場や事業所に供給するが、不足する場合は東北電力から購入し、余る場合は販売する。

 事故などにより系統がダウンし停電が生じるような緊急時は、組合設備は自立モードに切り替えて工場や事業所への供給力を確保したうえで、余剰電力は系統経由で、地域防災拠点の大衡村役場に供給する。

 停電時の回復ステップは、(1)プリウスPHVを含む蓄電池充放電システムにより、自家発電設備の起動を待たず電源を確保、(2)自家発電設備(コージェネ)を起動し各事業所・工場に災害復旧などで必要な電力を供給、(3)余剰電力が生じたら、東北電力に販売し、東北電力が地域防災拠点の大衡村役場などへ供給、となる。東北電力としては、余剰電力をトヨタから買い取り、系統の切り替えを行い、役場などに供給することになる。

再起動の種火課題

 日本でも導入が進む風力、太陽光は、巨大な蓄電システムである系統の活用が基本であるが、一部は分散電源として地域自立システムを支える役割を担う。電力システム構築の基本は、まとまりのあるエリアごとに、いざというときに独立運転が可能な「自立型マイクログリッド(電力網)」といった形で設計しておくことである。日本でも、実証事業を経て現実に稼働できる状況になっている。

 ただ、その電源は多くが再エネである。六ケ所村のケースでも触れたように、不安定な再エネ発電の再起動には「種火」の電源が必要だ。そのためには、迅速な起動や需給調整ができ、かつ一定容量の自家発電機、ゴミ発電機を含むバイオマス発電、蓄電池が必要不可欠だ。

(山家公雄、エネルギー戦略研究所 取締役研究所長)

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