週刊エコノミスト Online書評

『MMT 現代貨幣理論入門』 評者・田代秀敏

    著者 L・ランダル・レイ(バード大学教授兼レヴィ経済研究所上級研究員) 監訳 島倉原 翻訳 鈴木正徳 東洋経済新報社 3400円

    話題の新理論を提唱者自ら述べた決定版

     MMT(現代貨幣理論)の提唱者が自ら著した「バイブル」が本書である。

     冒頭で、「(ある人の)金融資産は、他の誰かの金融負債である」というMMTの第1原理が示される。これを議論で使うために、「国内民間収支+国内政府収支+海外収支=0」という恒等式が、微に入り細に入り(あるいは執拗(しつよう)に)論じられる。

     この恒等式により、もし政府収支が赤字(黒字)である場合には、民間収支か海外収支かのどちらか、または両方が、黒字(赤字)である。

     この恒等式は、著者が厳しく批判する主流派マクロ経済学でも、最初に習う基本事項の一つである。

     経済学の素人は、この恒等式を用いて因果関係を論じたがる。しかし、恒等式が何らの因果関係も示さないのは、学問における基本中の基本である。著者は経済学者なので、因果関係を論じるため他の原理を示す。

     それが「(誰かの)赤字が(他の誰かの)金融資産を生み出す」というMMTの第2原理である。それから「総支出が総所得を生み出す」などの因果関係が示される。

     さらに、「主権を有する政府には課税する能力があるので、家計や企業は、政府が発行して使用を強制する自国通貨を納税手段として蓄積する」というMMTの補助線あるいはレンマ(補題)が示される。

     こうした準備の上に、「中央銀行はマネーサプライ(通貨供給量)を制御できない」「政府赤字が非政府部門の貯蓄を創造する」「租税が貨幣に対する需要を創造する」「自国通貨における債務不履行リスクはない」などのMMTのテーゼが示される。

     しかし、MMTの神髄は、主流派経済学に大きな貢献をした天才的な経済学者アバ・ラーナー(1903~82年)が43年に唱えた機能的財政論の「布教」である。

     完全雇用実現の「機能」のために財政支出を増やし、インフレが生じたら金利を上げるという機能的財政論が2章を割いて敷衍(ふえん)される。さらに1章を割いて、「MMTに従うと必然的にインフレになる」という批判に反駁(はんばく)する。しかし、機能的財政論が民主主義と自由企業とを脅かしかねないとラーナーが注意したことは一切触れられない。

     MMTには家計や企業の行動方程式も市場の均衡方程式もないので、連立方程式でモデルを組み計算することができない。そのため、経済学の権威ある英文学術雑誌でMMTは一切取り上げられない。本書の読者からMMTの数学的モデルを構成する天才が現れることを期待したい。

    (田代秀敏、シグマ・キャピタルチーフエコノミスト)


     L.Randall Wray パシフィック大学、ワシントン大学に学んだ後、ローマ大学、パリ大学等の客員教授を経て現職。貨幣理論と金融政策、雇用政策などが専門。ポスト・ケインジアンの代表的論客とみなされている。

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