週刊エコノミスト Online2019年の経営者

編集長インタビュー 柿木真澄 丸紅社長

    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 中村琢磨:東京都中央区の本社で、ビジネスコンテストの事業化挑戦権者と共に
    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 中村琢磨:東京都中央区の本社で、ビジネスコンテストの事業化挑戦権者と共に

    ベトナムで100%出資事業加速

     Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ── ベトナムでの事業を加速させています。

    柿木 インスタントコーヒー製造販売会社「イグアスベトナム」を100%当社出資で設立し、今年度中の工場着工を目指しています。当社はブラジルで46年あまりインスタントコーヒー製造販売事業を手がけており、その知見を生かせます。ベトナムはブラジルに次ぐコーヒー生豆生産国であり、ASEAN(東南アジア諸国連合)・中国への供給拠点とします。まずは年間1万6000トンの生産能力を見込みます。

    ── 他にはどのような事業を。

    柿木 インスタントコーヒー工場の隣接地で、段ボール原紙製造工場も建設中です。ベトナムは人口9400万人で、国民所得の伸びに伴い、電子商取引や物流拡大で段ボール原紙の需要拡大が見込まれます。また、当社にとって製紙事業は主要ビジネスであり、日本国内で興亜工業(丸紅出資比率79・95%)や福山製紙(同55%)も経営するなど事業ノウハウがあります。これまで製紙の海外事業は、大手製紙の海外進出をお手伝いする案件が多かったのですが、今回は当社100%での出資です。将来的には段ボールだけではなく、紙おむつなどに使う衛生紙の製造も検討中です。

    ──100%出資の案件が相次ぎますね。

    柿木 過去には、事業に少数割合で参画するマイノリティー投資案件もありましたが、それでは事業の経営に参加できず、事業ノウハウが身につきません。丸紅の経営機能を発揮し、自ら責任を持ってビジネスを進めるために、マジョリティー投資、あるいは主体的に事業価値を高められる出資参画方式を推進することにしました。この方針は今年度から3カ年の中期経営戦略にも明記しました。

    ── 丸紅が得意とする電力事業では、昨年9月、新規の石炭火力発電には原則として取り組まない方針を示しました。

    柿木 石炭火力関連の資産を保有し続けて、ある日突然禁止されれば価値が大きく毀損(きそん)します。環境意識が高まる中、早い時期に脱却するのが良いという判断です。

    投融資枠を拡大

     5月に発表した中計は19~21年度の新規投資を9000億円程度とした。前期中計(16~18年度)は4000億~5000億円を予定していたが、事業を厳選した結果、実績は2874億円だった。

    ── 今中計で新規投資額がずいぶん増えました。

    柿木 当社はネットDER(純有利子負債倍率=自己資本に対する有利子負債の比率)が高く、18年度までは財務規律を重視し、意識的に投資額を抑えました。この結果、ネットDERは改善しました。財務も改善したので、将来に新規投資もしないと、ということで投資額を増やしました。

    ── 前中計の下では投資が抑制されて、会社の士気は下がりませんでしたか。

    柿木 社員が「投資判断の審査が厳しい」と意識して、手堅い案件ばかりを提案してきたことは否定できません。今中計ではそのような状況から解き放たれて、今までにない案件にも投資しようよ、という思いを込めた仕組みも作りました。

    ── 具体的には。

    柿木 4月に総勢100人の次世代事業開発本部を創設し、新たな事業モデルの創出を目指しています。各営業部から人材を集めたほか、25%程度は外部からデータサイエンティストなどの人材を採用しました。

    ── 新規事業推進の部署創設は、これまでも現在も、さまざまな企業が実施してきています。何が違いますか。

    柿木 確かに商社でも過去に10人程度を社内から選抜して新規事業創出を狙ったことはあります。しかし、その程度の規模では、予算や事業計画を作るうちに小ぶりになっていき、やがて自然消滅していくことが多くありました。今回は人員も多く、しかも外部からの採用もあり、社内外に向かって「本気なのだ」と宣言・アピールしています。実際に、ある海外の医薬品販売事業が今期の黒字を見込むなど、芽は出ています。また、昨年から、年齢や役職に関係なく新たな事業モデルを公募して事業化挑戦権を付与するビジネスプランコンテストも実施しています。

    ── 2020年3月期の業績予想は、資源など商社が得意とする事業が好調で過去最高益を見込みます。それでも新規事業創出を急ぐのはなぜでしょうか。

    柿木 今成功してる事業モデルで、1~2年後も過去最高益レベルは達成できるかもしれません。しかし、今成功モデルが100個あっても、10年後には30個に減っているリスクがあります。今こそ新たな事業を創出しないと、遅きに失するという強い危機意識があります。

    (構成=種市房子・編集部)

    横顔

    Q 30代の頃はどんな仕事をしていましたか

    A エジプトで発電所プラントの工事事務所長をしていました。

    Q 「私を変えた本」は

    A 『レバレッジド・バイアウト』です。米国のファンド、KKRの買収手法について書いた本で、その後のビジネスの参考になりました。

    Q 休日の過ごし方

    A 家でゆっくりすることが多いですが、時折近所のコーラスグループに参加したり、大学時代の仲間と温泉旅行に出かけます。


     ■人物略歴

    かきのき・ますみ

     1957年生まれ。ラ・サール高校、東京大学法学部卒業。80年丸紅入社。主に電力・インフラ部門を歩み、2010年執行役員。丸紅米国会社社長、丸紅副社長などを経て19年4月から現職。鹿児島県出身。62歳。


    事業内容:総合商社

    本社所在地:東京都中央区

    設立:1949年12月

    資本金:2626億円

    従業員数:4万2882人(2019年3月末、連結)

    業績(19年3月期、連結)

     収益:7兆4012億円

     純利益:2308億円

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