週刊エコノミスト Online書評

『日本発 母性資本主義のすすめ 多死社会での「望ましい死に方」』 評者・加護野忠男

著者 藤和彦(経済産業省経済産業研究所上席研究員) ミネルヴァ書房 2000円

母性原理+新技術でオルタナティブな社会模索

 本書の副題を見て終活の書物だと誤解する読者もいるかもしれないが、本書は個人の良い死に方を示そうとしたものではない。死をみとる側の人々と社会のあり方を示そうとした書物である。その出発点は第5期科学技術基本計画で政府が示したソサエティー5・0の概念である。1・0は狩猟採集社会、2・0は農耕社会、3・0は工業社会、4・0は情報社会と名称が与えられているのに対し、ソサエティー5・0に名称はない。その特徴として、新たな社会を生み出す変革を科学技術イノベーションが先導する社会であると、科学技術基本計画では示されているが、その具体的な姿は見えてこない。その姿を日本社会が直面する基本問題から描こうとしたのが本書である。

 著者が注目する基本問題は、多くの人が死ぬ多死という問題である。著者の推計によれば日本の年間死者数は、2018年には136万人、25年には150万人を超え、ピークの40年には168万人に達する。団塊の世代が死の時期を迎えるからである。しかもその死は老衰やがんなど緩慢なものが多い。緩慢な死はみとりに人手を要する。戦後の日本社会は死を日常生活から隔離し、みとりを病院に委ねてきた。しかし病院によるみとりの医療コストを国民が負担できるかどうかを考えると、みとりを病院任せにしておくことはできないだろう、病院に代わって家庭がみとりにもっと大きな役割を果たす必要がある。

 そこで重要になるのは家庭の支援である。そのためには、弱いものを自発的に助け、そこに喜びを見いだそうとする母性原理の行動が必要となる。日本の企業社会のなかには母性原理をもとにした多様な慣行やシステムが組み込まれていることを考えれば、母性資本主義は日本と親和的で、日本発になる可能性は十分にある。母性資本主義は、攻撃的で競争志向の父性資本主義と対比される資本主義である。これが新しい技術によって支えられる可能性もある。母性原理に従った行動にネット上でトークン(代用貨幣)を発行し、それを仮想通貨として流通させることによって母性原理がより鼓舞される可能性があると著者はいう。

 これからの社会がどうなるかを考えようとしているビジネスマンにお勧めしたい好著である。企業家とは、多くの人々が脅威と見る現象をチャンスとして見ることのできる人物であるといわれている。本書の読者から新しい企業家が輩出することを期待したい。

(加護野忠男・神戸大学特命教授)


 ふじ・かずひこ 1960年生まれ。通商産業省(現経済産業省)に入省、エネルギー問題や中小企業政策等に携わる。内閣官房に出向後、2016より現職。著書に『原油暴落で変わる世界』など。

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