週刊エコノミスト Online2020年の経営者

編集長インタビュー 河合利樹 東京エレクトロン社長兼CEO

Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市 公孝、東京都港区の本社で
Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市 公孝、東京都港区の本社で

半導体製造装置の雄、シェア拡大中

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 2020年3月期は上期営業利益が前年同期比41%減で、通期も27%の減益予想です。半導体市場で何が起きているのですか。

河合 半導体市況は需給のバランスが大きく影響します。いまは需要に対して供給能力が追いついてきたところです。そうなると価格は下がりますが、安くなれば普及が始まります。半導体市場はそうしたサイクルを繰り返しながら成長を続けていきます。

 1990年代にはパソコンが、00年代以降はスマートフォンが半導体市場をけん引し、いまは爆発的に増加するデータを中心に半導体の需要を押し上げています。今後も小さな相場変動のサイクルを繰り返しながらも右肩上がりの成長を続けていくと思います。

── ということは来期は増益を見込んでいる?

河合 前期(19年3月期)は過去最高の営業利益を上げました。21年3月期は前期以上に潜在力は高いと思います。メモリー価格が下落した状況(19年は一時、前年比約4割の価格下落)でも、当社の競争力は上がっており、19年10月末に発表した20年3月期の業績予想も4月時点の予想から売上高で100億円、営業利益で50億円それぞれ上方修正しました。

世界に装置出荷7万台

── 半導体製造装置での東京エレクトロンの強みとは。

河合 半導体の基板に電子回路を形成する過程には、四つの基幹工程があります。成膜(回路の素材となる膜を作る)、リソグラフィー(回路パターンの転写)関連、エッチング(不要な膜を削る)、洗浄(基板上に残る不純物を取り除く)です。当社はこの連続する工程のすべてで製造装置を作っている世界で唯一の会社です。これまで世界中に約7万台を出荷しており、業界最大です。この世の中にある半導体で東京エレクトロンの装置を通っていない半導体はまずありません。

── 基板に回路を焼き付けるための感光剤を塗布するコーター、露光した感光剤を現像するデベロッパーは世界シェア9割です。どこに競争力があるのですか。

河合 装置メーカーはモノ作りのハード技術だけでなく、ソフト技術、販売後のサービスのすべてそろわないと成り立ちません。製造装置は億円単位のものもある高価な商品です。顧客企業からすると、既存の製造装置とのマッチング(適合性)も大事です。そうした点は圧倒的なシェアを持つ当社に有利に働きます。

── 一方で、米アプライドマテリアルズ、米ラムリサーチ、日立ハイテクノロジーズなどの競合相手もいて、エッチング装置などでは他社がリードしています。どう戦いますか。

河合 ちょっと専門的になりますが、アスペクト比(エッチングで基板上に形成された回路パターンの幅に対する深さの比率)の値が大きくなるほど加工が難しくなります。近年普及した3D(立体)型のNANDフラッシュメモリーではこうした難易度が高い技術が求められています。この点で当社は他社以上の性能を有しており、その結果、エッチング装置のシェアを昨年は4%伸ばして目標だった30%台に引き上げることができました。

── そのほかの強みとは。

河合 最先端の微細加工技術で用いられる露光技術のEUV(極端紫外線)に関連した製造装置で当社はシェア100%です。また、液晶、有機ELのパネル用製造装置事業は昨年度は営業利益率が20%を超えました。有機ELは半導体で培った技術を生かせるので、今後の技術革新に期待しています。

中国市場で米国勢に配慮

── かつては世界を席巻した日本の半導体メーカーですが、最近では半導体から撤退する企業も増えています。国内の再編や撤退の動きは装置メーカーに影響を与えますか。

河合 ないと思います。18年の世界の半導体市場は4688億ドル(約51兆5000億円)ですが、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、5G(第5世代移動通信規格)などで用途が広がっていて、30年には1兆ドルを超えるとの予測があります。半導体の歴史を切り開いたトランジスタは1947年に開発され、70年を経て50兆円を超える市場になりました。今後10年で同じ規模の市場ができあがるかもしれないのです。

── ハイテク分野での米中対立が続く中、中国に製造装置を売らないようにと、米国から日本の装置メーカーに圧力が掛かっていると聞きます。

河合 政治的な動向に対して一企業としてコメントはしません。ただ、フェアネス(公平・公正)を重視する観点から、米国の装置メーカーが(一部の)中国メーカー向けの輸出を規制されている中で、当社が代替需要を狙いにいく営業活動は行わない方針です。

(構成=浜田健太郎・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんな仕事をしていましたか

A 英国とドイツに計6年駐在しました。海外の文化に触れた貴重な体験でした。

Q 「好きな本」は

A 『三国志』です。歴史は勉強になります。

Q 休日の過ごし方

A 学生時代から続けているゴルフです。ハンディキャップはありません。年間30回くらいグリーンに立ちます。


 ■人物略歴

かわい・としき

 1963年生まれ。明治大学付属中野高校卒業、明治大学経営学部卒業。86年東京エレクトロン入社、2010年執行役員、15年副社長を経て16年1月から現職。大阪府出身、56歳。


事業内容:半導体製造装置、ディスプレー製造装置の製造、販売など

本社所在地:東京都港区

設立:1963年11月

資本金:549億円

従業員数:1万3021人(2019年4月現在、連結)

業績:19年3月期

 売上高:1兆2782億円

 営業利益:3105億円

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