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日本車 “1強”トヨタは「全方位」 ホンダはGMと巻き返し=河村靖史

(出所)編集部作成、写真はBloomberg
(出所)編集部作成、写真はBloomberg

 かつて「石橋をたたいても渡らない」と揶揄(やゆ)されたほど、他社との提携や、新しい取り組みに慎重だったトヨタ自動車が他社との連携を強化している。<自動車革命で伸びる会社>

なりふり構わぬ連携

 約3年前に業務提携交渉を開始して以来、商品の相互補完やインド事業、電動化技術で協業してきたスズキと2019年8月に資本提携することで合意した。トヨタは約960億円を投じてスズキに4・9%出資、スズキは480億円相当のトヨタ株式を取得して株式を持ち合う。さらにトヨタは19年9月、約800億円投じてSUBARU(スバル)への出資比率を16・8%から20%に引き上げ、持ち分法適用会社化することでも合意した。スバルも800億円を上限にトヨタ株を取得する予定だ。

 トヨタが他社との連携を強化しているのは自動車メーカーだけではない。電動化を急速に進めるトヨタは、パナソニックと車載用電池の合弁会社を20年春ごろ設立する。車載用電池世界最大手の中国・寧徳時代新能源科技(CATL)、中国・比亜迪(BYD)、東芝、GSユアサコーポレーション、豊田自動織機と車載用電池での協業を決めた。トヨタはハイブリッド車(HV)に注力した影響もあり、電気自動車(EV)では独フォルクスワーゲン(VW)などのライバルに出遅れている。電動化の中核技術であるリチウムイオン電池で巻き返しを図るため、なりふり構わずにグループ外とも連携する。

 トヨタが他社との関係を強化しているのは「CASE革命によって、これからのクルマは情報によってあらゆるモノ・サービスとつながり、社会システムの一部になる。これからはアライアンスの時代であり『仲間づくり』が重要」(トヨタ・豊田章男社長)と見ているためだ。トヨタといえど自動車の大変革に単独で対応するのは困難で、CASEで出遅れれば生き残れないとの危機感がある。

 自動車事業は新車を生産ラインで大量生産・販売して定期的にアフターサービスを提供、多くの顧客が10年以内に新車に代替し、下取った車を中古車市場で販売するという「非常によくできたビジネスモデル」(豊田社長)だが、CASE時代はこれが通用しなくなる可能性がある。

 CASEが本格化すると、既存の自動車メーカーは、大量生産システムを抱えていることが競争上不利に働く可能性がある。特にトヨタは巨大さゆえに、自動車のビジネスモデルの急激な変化に対応するのは難しい。こうした中「モビリティーカンパニーになる」ことを宣言したトヨタは米ウーバー・テクノロジーズ、中国の滴滴出行(ディディ)、シンガポールのグラブといったライドシェア大手に出資、日本ではソフトバンクグループと提携し、移動サービスのプラットフォームを提供する合弁会社モネ・テクノロジーズを設立した。これらIT企業と連携するのは「クルマが売れない時代」のビジネスを模索するためだ。ただ、どの分野や技術が将来のトレンドになるかが不透明なため、トヨタは保険を掛けるように「全方位」で攻勢をかけている。

「犬猿の仲」もいとわず

 日産はCASE対応ではこれまでアライアンスを組む仏ルノー、三菱自動車との連携が中心だったが19年6月、米アルファベット(グーグル)傘下のウェイモと自動運転サービスの技術開発で独占的に提携することで合意した。ウェイモは自動運転分野では、世界で最も進んでいると言われており、18年12月には米国の一部地域で、利用者限定ながら「ロボットタクシー」と呼ばれる自動運転の配車サービスを開始している。日産にとってはウェイモとの協業によって自動運転を開発する上で強い後ろ盾を得た。

 再編が加速する自動車業界で孤高を貫いてきたホンダも、CASE時代の生き残りに向けて脱・自前主義への転換を進めている。ホンダはウェイモと自動運転分野で提携することを検討していたが、最終的に交渉が決裂した。理由は明らかになっていないものの、ウェイモ側が自動運転関連技術の提供を絞ったことと見られている。それでも単独で生き残るのは難しいとの危機感を持つホンダは、ウェイモとの交渉が決裂して数カ月後には米ゼネラル・モーターズ(GM)の自動運転車開発部門で、ソフトバンクも資本参加するGMクルーズに出資し、無人ライドシェアサービス車両を共同開発することで合意した。ホンダはGMとは燃料電池車の基幹部品の開発や、電動車両向け次世代バッテリーで協業しており、CASE対応ではGMとの関係を深めている。

 ただし、ホンダが連携しているのはGMだけではない。「犬猿の仲」と言われるトヨタがソフトバンクと設立したモネへの出資を決めた。「出資してもマイナスはない」(ホンダ・八郷隆弘社長)と判断、新しいモビリティーサービスの先行きが不透明な中、この分野は協調領域と判断した。

 ホンダは19年11月、日立製作所と、両社の傘下の部品メーカー4社の経営を統合することで合意した。ホンダの系列部品メーカーは規模が小さいが、自動運転や電動化などの次世代技術では、独ボッシュや独コンチネンタル、デンソーなどのメガサプライヤーが主導権を握っている。ホンダが筆頭株主のケーヒン、ショーワ、日信工業の3社と、日立グループの日立オートモティブシステムズが経営統合すれば、国内サプライヤーとしてはデンソー、アイシン精機に次ぐ3位に浮上する。

 トヨタとの関係を強化しているスバル、スズキ、マツダはCASE対応ではトヨタに依存することになりそうだ。スズキがトヨタと業務提携から資本持ち合いに一歩踏み込んだのは自動運転分野を含めた新たなフィールドで協力を進めるためだ。トヨタの持ち分法適用会社となることを選んだスバルの中村知美社長は「両社の関係をもう一段ステップアップさせることで、CASEなどへの対応力を強める」とコメントしている。

 スズキやスバルによると、提携事業の現場で「トヨタから自動運転や電動化などに関する重要な情報を得られない」事態が表面化したことから、トヨタとの資本提携や出資比率引き上げに応じたという。トヨタが約5%出資するマツダも電動化やコネクテッド、自動運転などの次世代車に関してはトヨタと共同開発しており、スズキ、スバルと同様にCASE対応ではトヨタ頼みだ。ただ、電動化や自動運転ではトヨタはライバルより遅れており、トヨタグループで共倒れとなるリスクもある。

(河村靖史・ジャーナリスト)

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