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積水ハウス地面師事件「マネロン事件の兆候」、日米株主が三菱UFJに質問状=編集部
「よくあるマネロンの事件の兆候がちらほら散らばっている。これこそまさにテロリストの資金調達の手段だ」。
国内住宅大手、積水ハウスの現経営陣に退陣を迫った米投資ファンドの代表、クリストファー・ブレイディ氏は2月17日、都内の記者会見の席でこう語った。
2017年、地主になりすまし東京都品川区の土地を55憶5000万円で積水ハウスに売却した不動産詐欺、いわゆる地面師事件は、事件の責任をめぐって和田勇前会長兼CEO(最高経営責任者)と阿部俊則会長(当時社長)が対立。18年に事件の徹底調査を進めた和田氏が阿部氏らに解任に追い込まれることとなった。このクーデターから2年を経て、和田氏は自身を含む11人の取締役候補の一括選任を4月の定時株主総会で求める方針で、17日に会見を行った。候補には積水ハウスの勝呂文康取締役専務執行役員や元常務執行役員の藤原元彦氏も含まれる。
ブレイディ氏ら米投資ファンドが和田氏と組み、ガバナンス(企業統治)改善のための経営改革に参加したのは、「地面師事件に絡みマネーロンダリング(資金洗浄)の疑いがあるため」と日米株主に助言を行う弁護士は指摘する。
和田氏は会見で「預金小切手を7回も発行している。このような決済を積水ハウスは行ったことはない。普通は振り込みだ」と語った。不正取引の資金決済は持参人小切手と呼ばれる預金小切手で、小切手の裏面に発行した銀行の口座を持つ名義人の届出印と署名があれば、即日換金が可能という。小切手の振り出し、換金、送金を行ったのは三菱UFJ銀行だった。
7枚の小切手、1枚は36億円
49億円の小切手は7枚に分かれ、うち1枚は36億円と巨額だったが、三菱UFJ銀行の新宿新都心支店に口座を持つペーパーカンパニーの口座に入金され、そこからさらに送金されたとみられる。ブレイディ氏らは消えた資金の流れを三菱UFJ銀行がどう把握し、確認したのか、その経緯や説明を求めている。
小切手の振り出しや換金、送金が正常な取引かどうか、弊誌が三菱UFJフィナンシャル・グループに問い合わせたところ、広報担当者は「個別の取引についてはお答えできません」と回答。ただし、「一般に小切手の振り出し、入金、送金については各段階で行内の基準に沿って本人確認などを行ったうえで処理している」と説明した。
日米の捜査機関にも質問状
三菱UFJ銀行がなぜ詐欺にかかわる不自然な資金の流れをチェックできなかったのか、日米の株主は、年初から動き出していた。弊誌が入手した資料によると、積水ハウスの日米の株主の代理人である米弁護士のウイリアム・ウチモト氏と大阪シティ法律事務所の松岡直樹弁護士は、20年1月9日付で三菱UFJの経営トップに地面師事件の資金の流れと積水ハウスの損失について、マネロンの疑いがあるとして調査を依頼する書状を送った。
書状の写しは、マネロン対策を手がける政府間組織として1989年に設立された金融活動作業部会(FATF)、米通貨監督庁(OCC)、米財務省、NY州金融サービス局、米連邦捜査局(FBI)、日本の警察庁や金融庁などにも送られた。
質問状を送った弁護士によると、三菱UFJ銀行から2月21時点で何の連絡もないという。同行広報担当者は書面を受け取ったことを認め、対応については「社内で調査中」としている。
和田氏は会見で「現役復帰は目的ではない。代表取締役になる考えはない」と断言。外国人を含む社外役員が経営に関与することで、積水ハウスのガバナンス(企業統治)改善を図るのが狙いと説明。社外取締役候補の1人である米投資ファンド、スパウティング・ロック・アセット・マネジメントのパメラ・ジェイコブ氏も会見で「ガバナンスを強化できれば米市場に進出して成功すると信じている。米国での上場も可能だ」と意気込みを語った。(編集部)
****訂正しました:東京都渋谷区の土地 とあるのは 品川区の誤りでした****