経済・企業挑戦者2020

平井瑛　ｅｓｔｉｅ代表取締役ＣＥＯ／宮野恵太　ｅｓｔｉｅ取締役ＣＴＯ　オフィス探しを効率的に

2020年2月17日

　神奈川県の中高一貫校「栄光学園」から東大に進んだ同級生コンビが、それぞれの得意分野を武器に、オフィス不動産市場に風穴を開けようとしている。

（聞き手＝藤枝克治・本誌編集長、構成＝市川明代・編集部）

平井　非公開情報が多く、優良物件にアクセスするのが難しいとされてきたオフィス不動産市場で、満足のいく選択ができるようにする検索エンジン「estie（エスティ）」を運営しています。不動産業界の勤務経験で得たノウハウに、人工知能（AI）の技術を掛け合わせ、精度の高い推定適正賃料などの情報を提供しています。

　オフィス探しは住宅探しと異なり、相対で賃料が決まるので、ネットで見られる物件の9割は賃料が非公開。また、この世界は閉鎖的で、オフィスのオーナーは賃料などの情報を懇意にしている仲介業者にしか流しません。SEO（検索エンジンで自社のウェブサイトをより多く露出させたり上位に表示させたりする対策）も遅れているので、ネット上ではベストな選択肢を提示してくれる業者に接触することさえできないのが現状です。

　エスティに会員登録すれば、ネットで公開されている物件名と、当社が算出する推定賃料を閲覧できます。さらに、当社は大手仲介会社の半数以上と契約しており、仲介会社から直接、条件にマッチした非公開の物件情報がPDFファイルで送られてくる仕組みになっています。成約後に仲介会社からもらう手数料が収入となっています。

精度の高い賃料推定

宮野　強みはAI技術です。機械学習エンジニアの知見だけを頼りに、過去の成約賃料をベースとして賃料を推定してみても精度は上がりません。どういうロジックで賃料が決まるのかを知っている平井とともに、経済の動向や景気変動などさまざまな条件を入れて試し、それを高速で学習させていくことで、誤差率は2.79％にまで下がりました。データを積み上げることで、さらに精度は上がっていきます。

平井　大学卒業後、三菱地所に5年間勤務しました。ベンチャー企業の物件探しを手伝う中で、不動産のネットワークを持っていないベンチャー企業や中小企業にとって、物件探しがどれだけ難しく、煩雑であるかを知りました。オフィス探しの手間を極限まで減らすことで、より戦略的な事業所移転ができるのではと考え、中高の同級生で元バンド仲間の宮野に声をかけたのです。

宮野　NTTドコモでは、データサイエンスのエンジニアとしてネットワークのログ分析などをしていました。平井の話を聞いて、例えば東京・大手町に移転すると賃料は高くなるけれど企業価値も高まるのだと知り、プロが肌で感じていることを定量化する、そんな世界を作るのも面白いのではと考えました。

平井　2018年12月のサービス開始から、これまでの登録は延べ180社。渋谷や丸の内でオフィスを探すスタートアップ企業が増えたことで、ニーズが高まっています。

　いま不動産デベロッパーや投資家向けの新たなサービス「estie pro（エスティプロ）」の準備を進めています。有価証券報告書を基に、物件情報と物件を買ったファンド、売買価格や鑑定評価額、賃貸収入などの情報をひも付けたデータベースを作っています。両サービスでデータを蓄積し、互いに学習させることで、相乗的によりよいサービスにしていきたい。年内にエスティの延べ登録数を1000件、成約件数を150件まで伸ばし、上場の足がかりにしたいと考えています。