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国際・政治 中国発 世界不況

細るベンチャー投資 資金供給25%減で「資本の冬」=高口康太

山積みにされたシェア自転車(Bloomberg)
山積みにされたシェア自転車(Bloomberg)

 2019年3月、ライブ動画サイト「熊猫直播(パンダTV)」が閉鎖された。同社は不動産王・王健林氏の息子、王思聡氏が15年に創業したベンチャー企業。若者に人気のeスポーツやゲーム実況に強いサイトとして注目され、ベンチャーキャピタル(VC)から累計10億元(約160億円)超を調達してきただけに、業界に衝撃が走った。

<中国発 世界不況>

 ライバルサイトの「闘魚」「虎牙」との競争から有力実況者との契約金が高騰するなどコストがかさんで黒字化できなかったことが直接の要因だが、背景には「資本の冬」がある。これまでなら業界3位、4位の企業であっても資金調達は容易で、黒字化できなくても生き延びられた。しかし、ベンチャー向けの資本市場は冷え込み、資金調達は厳しくなっている。

 シェア自転車や無人コンビニといった「風口」(追い風の吹く注目ジャンル)の起業に多額の資金が集まり、豊富な資金でひたすらに規模を追い、マネタイズ(収益化)は後から考えればいい――。こうしたチャイナ・イノベーションのスタイルが今、曲がり角を迎えている。

(出所)清科研究センター「2019年度中国エクイティファイナンス市場の回顧と展望」(Bloomberg)
(出所)清科研究センター「2019年度中国エクイティファイナンス市場の回顧と展望」(Bloomberg)

 中国のVC調査会社、清科研究センターの報告書によると、19年のベンチャー向け投資は1577.8億元(約2.5兆円)で、前年から25%減った。18年からささやかれていた「資本の冬」が数字の上でも明確になった。

 中国では14年からベンチャー投資が急激に活発化し、新たな投資スポットとして注目を集めてきた。だが、上場した企業の株価が低迷するなど、投資回収率は期待を下回った。上場前の評価額が高騰しすぎたためで、この反省からVCは企業価値や利益モデルを冷静に見極めるようになった。

 企業価値を冷静に判断するのは当然の話で、中国も普通の国に近づきつつあるとも言える。しかし、チャイナ・イノベーションの魅力は巨額の資金による爆発的な成長にあった。シェア自転車という新規ビジネスが生まれ、道路はカラフルな自転車で埋め尽くされる。出前代行がはやれば、どこに行っても駆け回る配達員を見かける。この圧倒的なスピード感は「資本の冬」の下、失われつつある。

 例えば、近年の「風口」の一つである生鮮スーパーの勢いは完全に止まった。EC(電子商取引)大手の京東集団(JDドットコム)は18年、電子値札や無人レジを導入した新型スーパー「セブンフレッシュ」を5年間で1000店舗展開すると発表したが、まだ13店舗にとどまっている。ライバルの新型スーパー「超級物種」も苦戦。親会社の小売りチェーン、永輝超市は業績への影響を防ぐため、株式を売却して連結子会社から外した。

 IoT(モノのインターネット)事業を手がける、ある中国ベンチャー経営者は筆者の取材に「自分が創業した15年にはアイデアしかなかったが、4000万元(約6.3億円)もの金が集まった。クレイジーな時代だった。今ならとてもそんな資金は集まらない」と話す。

“大衆の創業”時代は終わり

 ベンチャー投資が先細る中、資金を獲得できるのは有力大学卒業といった学歴、確かな技術力、豊富な業界経験を持ったプロだけだ。素人に毛の生えたような起業家でも資金を手にできたかつてのチャイニーズドリームの熱は失われつつある。先述の経営者は言う。「中国政府が唱えた双創(大衆の創業)の時代は終わった。今後は精英創業(エリートの創業)になるだろう」。

(高口康太・ジャーナリスト)

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