「夢」のがん診断術 尿 10~15種類のがん判定へ=下桐実雅子/加藤結花
名古屋大発ベンチャー「Icaria(イカリア)」(東京都文京区、小野瀬隆一CEO)は、尿の中に含まれる「エクソソーム」と呼ばれる物質を独自の装置で捕捉。その後、エクソソーム中に存在し、がん細胞から分泌されていると考えられる「マイクロRNA」を取り出して、受診者のデータのプロファイルを作る。これを機械学習によって解析することでがんの種類の判定を目指す。
エクソソームは、細胞から分泌される20~200ナノメートルほどの超微小なカプセル状の物資で、細胞と細胞の間や、血液、尿などの体液中に存在している。従来の方法では尿中の15~25%程度のエクソソームしか捕捉できなかったが、Icariaは99%以上の捕捉に成功した。これにより、がんかどうかを判定するために必要な1人当たりのマイクロRNAの検出数も、従来の200~300種類から約5倍の約1300種類を検出できるようになった。検査の精度の向上が期待できる。
小野瀬CEOは、99%以上の尿中のエクソソームを捕捉できる意義について、「会社のメールを全てハッキングすると社内の状況が分かると思うが、エクソソームもそう。断片ではなくほぼ全てが明らかになったことで、がん検査についてもより多くの正確なことが言えるようになる」と胸を張る。
エクソソームの大量捕捉を可能にしたのが、「ナノワイヤ」という微細なワイヤを用いた同社の独自デバイスだ。剣山のようにナノワイヤを張り巡らせた装置に、尿を入れ、電気の力でナノワイヤにくっつけ採取する。同社の共同創業者、名古屋大学の安井隆雄准教授が開発した。
業界の「非常識」を逆手に
そもそも尿でエクソソームを採取することは、血液での採取が一般的な医療関係者にとっては「非常識」だった。だが、工学博士でデバイスを研究する安井准教授は「血液にはたんぱく質など不純物が多い。血液が腎臓を経てろ過され排出される尿のほうが簡単にエクソソームが取れるのではないか」と考えて挑戦した。尿なら血液と違い、注射も不要だ。小野瀬CEOは元三菱商事の商社マン。異色の二人が「成果」を出しつつある。
今年度中のサービス開始を予定する。開始時の価格、対応するがんの種類は未定だが、肺、乳房、膵臓(すいぞう)、胃、卵巣など10種以上のがんの判定に使用できる可能性が高く、今年、来年で3000~4000件の検体を解析して臨床試験を進める。多くの検体をプロファイルし解析することで、将来的にはがんの種類ごとの判定だけでなく、がん以外の類似疾患や腫瘍の悪性・良性の判別もできる可能性も見込む。
今年1月には、HIROTSUバイオサイエンス(東京都港区、広津崇亮代表)が尿によるがんのリスク検査サービスを始めた。線虫が「がん患者の尿に集まる」性質を利用した検査で、胃、大腸、肺、乳房、子宮、膵臓、肝臓、前立腺、食道、卵巣、胆管、胆のう、ぼうこう、腎臓、口腔(こうくう)・咽頭(いんとう)の15種類のがんに反応するとされる。検査費用は9800円。現時点ではまだ、がんの種類は特定できない。
(下桐実雅子/加藤結花・編集部)