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「夢」のがん診断術 唾液 大腸がんの早期発見に成功=下桐実雅子/加藤結花

唾液がんリスク検査「サリバチェッカー」
唾液がんリスク検査「サリバチェッカー」

 唾液によるがん検査で、すでに検査サービスを提供しているのが「サリバテック」(山形県鶴岡市)だ。同社は、東京都内で開業する大泉中央クリニックの院長で医師の砂村真琴氏が代表を務める。

サリバテックの砂村真琴代表
サリバテックの砂村真琴代表

 サリバテックが提供するがんリスク検査「サリバチェッカー」では、唾液に含まれるポリアミン類と呼ばれる物質など約10種類の代謝物の濃度を測定して、AI(人工知能)で評価する。ポリアミン類は細胞分裂や増殖に欠かせない物質のため、増殖を続けるがん細胞が存在すれば、ポリアミン類が増加する傾向にある。複数の物質を組み合わせて診断することで、膵臓(すいぞう)、大腸、乳房、肺、口腔(こうくう)の5種類のがんの判定が可能だ。

 2017年から検査サービスを開始し、延べ9000人以上が受診。検査によって、早期がんや進行がんが発見された例も報告されているという。砂村代表のクリニックでは、検査で大腸がんのリスクありと判定された70代の男性にステージ2の大腸がんを発見。体へのダメージ(侵襲性)を抑える「ロボット支援下内視鏡手術」によってがんの切除に成功した。

 大腸がん検診の方法で一般的なのは、大便に血液が混ざっているか調べる「便潜血反応」だが、砂村代表によると、「この検査でも陽性と診断された人のうち本当に大腸がんである可能性は3〜5%ほど。一方、サリバチェッカーの的中率は20%か、それ以上になるという感触だ」という。

 また、「自分たちで臨床研究をやるとバイアスがかかる危険性がある」(砂村代表)と研究に関与しないというのもサリバテックの特徴だ。同社の検査は、東京医科大、慶応義塾大などの倫理委員会の審査を受けた研究を根拠とする。

 サリバチェッカーは現在、歯科を含む全国約600の医療機関で受診できる。価格は約2万〜4万円。現行5種のがんに加えて、泌尿器系のがんについても来年中の実用化を目指す。

検査後のフォローも重視

東京医科大の杉本昌弘教授
東京医科大の杉本昌弘教授

 10年以上唾液の代謝物の研究を行っているのが、東京医科大医学総合研究所低侵襲医療開発総合センターの杉本昌弘教授だ。杉本教授は慶応大先端生命科学研究所(山形県鶴岡市)に在籍していた10年、米カリフォルニア大ロサンゼルス校歯学部のデビッド・ウォン教授との共同研究で、採取した約200人分の健常者とがん患者の唾液を同研究所の解析装置で解析。膵臓、乳、口腔の3種類のがんに罹患(りかん)していることを示す54種類の物質を特定した。この研究を実用化したサリバテックは、慶応大発ベンチャーとしてスタートした。

 杉本教授は同社の取締役だが、経営には関与せず、研究者として他の東京医科大の研究者らとともに臨床研究に当たっている。「何千種とある代謝物の中から、がんの種類ごとに最適な組み合わせを見つけ出す『宝探し』のようなレベルから始め、臨床研究を積み上げる。パイロット研究で新しいがん種の判定可能性がかなり高く出たとしても、焦って実用化につなげるようなことはしない」(杉本教授)。

 また、がんリスク検査後の対応の重要性も指摘。「東京医科大を中心に、これまで共同研究をしてきた全国の先生らの協力を得て、検査を受けた人が専門医の診断を受けられるようアフターフォローも充実させていきたい」としている。

(下桐実雅子/加藤結花・編集部)

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