国際・政治

米国に根付く「民主社会主義」 サンダース氏劣勢も若者は支持=中岡望

若者から支持されるサンダース氏 (Bloomberg)
若者から支持されるサンダース氏 (Bloomberg)

 米民主党の大統領候補を選ぶ予備選挙のさなか、ミシガン州とコロラド州の出口調査で興味深い結果が出た。米国経済に関する質問に対し、両州の投票者で、「経済を全面的に改革する必要がある」と答えた割合はいずれも49%に達している。また、「改革が必要」との回答は、ミシガン州で39%、コロラド州で43%を記録している。回答者の実に8割以上が、現在の米国資本主義のあり方に疑問を呈しているのである。

 伝統的に米国は「社会主義」を毛嫌いしてきた。多くの米国人は、社会主義は労働倫理を衰退させ、イノベーションを阻害し、政府に対する過剰な依存を助長するものと考えてきた。

一戸建て「夢のまた夢」

 だが、最近は社会主義に対する米国人の意識が大きく変わってきている。米ギャラップの調査(2019年5月20日)によると、社会主義が米国社会にとって好ましいと答えた比率は1942年が25%であったのに対して、19年は43%へと高まっている。

 他方、社会主義が米国社会にとって悪いという比率も40%から51%へと増えている。民主党支持者でみると、18年時点の調査では、社会主義を積極的に評価すると回答した比率は57%に達している。また民主党支持者の78%が、米国には非常に大きな経済格差が存在すると答えている。共和党支持者では、その比率は41%と低い。

(出所)米ピュー・リサーチ・センターより筆者作成
(出所)米ピュー・リサーチ・センターより筆者作成

 特に00年代に成人した現在23~36歳の「ミレニアル世代」の若者層では、資本主義体制に対する不満が高まり、社会主義を評価する動きが顕著になってきている。米ピュー・リサーチ・センター調査では、米国全体では資本主義を支持する比率61%に対して社会主義を支持する比率は39%にとどまるが、若者の比率は大きく変わる。18~24歳では社会主義支持と資本主義支持の比率は58%対37%と圧倒的に社会主義の方が多い。25~34歳では社会主義支持と資本主義支持は43%対56%と資本主義支持が多いが、それでも社会主義支持は高水準である(図)。

 ミレニアル世代が社会主義を支持する背景には、新自由主義に基づく競争政策によって経済格差が急速に拡大してきたことがある。富裕層と低所得者層の間での所得格差や人種間での所得格差の拡大にとどまらず、70年以降、世代間の所得格差も急激に拡大している。高齢層の所得増加が大きいのに対して、若者層の所得の伸びは低迷している。「アメリカンドリーム」の一つに“子供の世代は親の世代よりも生活水準が向上する”ことがある。

 かつて、米国の若者は自立心が強く、早く両親から自立するといわれていた。だが、この数十年、賃金の上昇は低迷し、給料だけでは自活できず、両親と同居しなければ生活できない若者は30%を超えている。住宅価格も上昇し、郊外に芝生の庭に囲まれた一戸建ての家を持つなど夢のまた夢となっている。

 米国では大学を卒業しなければまともな職に就けない。だが、大学の授業料は急激に上昇し、銀行から学生ローンを借りなければ大学進学は困難になっている。だが、大学を卒業して就職しても、巨額の学生ローン債務(最近時点での総残高は約1・6兆ドル)を抱え、返済に追われる日が続くことになる。十分な医療保険制度もなく、多くの若者層は貧困を強いられる状況に陥っている。ピュー・リサーチ・センターの調査(19年7月)では73%以上の若者は国民皆保険制度を支持し、75%以上は政府が大学の授業料を払うべきだと答えている。厳しい現実に直面した若者層の叫びといえる。

 そうした声を受け止めて登場したのがバーニー・サンダース上院議員である。同議員は16年の民主党大統領予備選挙に出馬し、自らを“民主社会主義者”と名乗り、圧倒的な若者層の支持を得て、対抗馬のヒラリー・クリントン候補を追い詰めた。今回の民主党大統領予備選挙でも「政治革命」を掲げて出馬。2月末までの世論調査では、他の候補を圧倒する支持を得ていた。

 だが、3月3日、複数の州の予備選が集中する「スーパーチューズデー」で民主党主流派が民主社会主義という過激な主張を展開するサンダース氏を敬遠し、穏健派候補が一斉に前副大統領のジョー・バイデン候補支持で結集し、サンダース氏は敗北した。その結果、ウェブメディアの「ファイブサーティエイト」は3月23日時点で、バイデン氏が大統領候補になる確率は98%と指摘している。

 バイデン氏など穏健派はサンダース氏が主張する国民皆保険制度や学生ローン債務免除、公立大学の授業料無料化、富裕層に対する課税強化などの政策は「過激」だと反対する。民主党主流派は過激な民主社会主義的な政策は有権者の反発を買う可能性があり、大統領選挙でトランプ大統領に負けるだけでなく、議会選挙で議席を失うことを恐れたのである。

民主党主流派に影響

 サンダース氏の政治革命はついえたのだろうか。バイデン氏が民主党の大統領候補になったとしても、若者が直面する厳しい現実に変わりはない。18年の中間選挙では、温暖化防止や格差是正による経済活性化策「グリーン・ニューディール」などリベラルな政策を主張するアレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員をはじめとするミレニアル世代の若手議員が、多数下院選挙で当選を果たした。その多くはサンダース氏の支持者でもある。

 ジャーナリストのエリック・レビッツ氏は雑誌『インテリジェンサー』(20年3月4日)に「バーニー革命は失敗した。しかし、“彼の運動”は依然として勝利できる」と題する記事を寄稿し、「サンダース氏は民主党員のイデオロギーの方向性と民主党内での議論の内容を変えた」と指摘する。

 すなわち、もはや穏健派はサンダース氏が提起した社会主義的な政策を無視できなくなっており、これから民主党はサンダース氏の影響を受け左寄りに引っ張られていくことになるだろう。事実、バイデン候補は学生ローンの一部免除などサンダース候補の政策を採用すると表明している。サンダース派の若い世代の支持を得られない限り、大統領選挙に勝てないからだ。サンダース氏がまいた政治革命の種がミレニアル世代の支持を得ながら、芽を吹くことは間違いない。

(中岡望・東洋英和女学院大学客員教授)

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