法務・税務コロナ不況 残る会計士 消える税理士

「決算」で見る監査法人 総じて低い収益性  「東芝粉飾」の新日本は後退=伊藤歩 

    4大法人は、世界4大会計事務所とそれぞれ連携 (Bloomberg)
    4大法人は、世界4大会計事務所とそれぞれ連携 (Bloomberg)

     監査法人は公認会計士法を根拠法とし、5人以上の公認会計士が共同して設立する特別法人である。法人に出資する社員(パートナー)になれるのは原則公認会計士だけだが、社員全体の25%以下の人数でなら、公認会計士以外でも社員になることができ、これを特定社員と呼ぶ。

    コロナショック 残る会計士 消える税理士

     基本的には社員全員が無限責任を負うが、2008年4月に損害賠償責任を担当会計士に限定する有限責任形態の監査法人制度がスタート。4大法人のうち、新日本監査法人(現・EY新日本有限責任監査法人)が08年7月、監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)が09年7月、あずさ監査法人(現・有限責任あずさ監査法人)が10年7月、あらた監査法人(現・PwCあらた有限責任監査法人)はその6年後の16年7月に有限責任形態に移行した。

     上場会社の監査を手掛ける監査法人は、日本公認会計士協会に上場会社監査事務所登録をし、「業務及び財産の状況に関する説明書類」を提出する義務を負っている。有限責任形態の監査法人は、この書類に財務諸表を添付する義務があるため、今回はこの決算書類を使い、4大監査法人の財務状況の分析を試みた。期間は4法人の横比較が可能な11年度(新日本、あずさ、あらたは12年6月期、トーマツは12年9月期)からとし、あらたについては財務諸表の開示がない16年度以前は、同法人の事業報告書記載数値で集計した。

    業務収入1位はトーマツ

     監査法人の財務諸表は株式会社のものとよく似ているが、会計処理の方法は若干異なる。まず売上総利益の概念がない。業務収入から業務費用を差し引いて営業利益を算出する。

     社員が退職すると、その社員が出資していた資本金は当人に返還されるため、資本金残高はその都度変動する。

     所有と業務執行は完全に一体化しており、株式会社は役員賞与を利益処分から支払うが、監査法人では社員の報酬のみならず賞与も全て業務費用で処理する。

     赤字決算を組むと、官公庁関連の監査業務を請け負うことができなくなるため、利益が厳しい年は、社員の手取り報酬の一部を配当で支払うことで、社員の手取りはそのままに、営業利益を底上げすることも合法的に可能だ。

     ちなみに、開示資料を見る限り、新日本とあらたは配当を実施した形跡はないが、あずさはコンスタントに毎年4億円前後(18年6月期のみ8・5億円)を、トーマツは15年9月期に19億円、16年9月期に28億円弱、19年5月期に17億円強の配当を実施している。

     配当方針については、あずさは「その時々で決めていて、決まった方針はない」そうだが、トーマツは「将来の投資などを含めた監査法人としての財政基盤の健全化の観点から、一定の金額や比率を基に算出した金額を剰余金として留保したうえで、これを超える金額を配当している」という。

     直近の18年度(トーマツのみ19年5月期、それ以外は19年6月期)の業務収入ではトーマツがトップ、2位があずさ、3位が新日本。かつては新日本がトップだったが、東芝の不正会計で監査先が他法人に流出したほか、18年6月にIT監査業務をグループ会社に移管した影響で順位を落とした(図1)。

     トーマツは決算期を9月から5月に変更した17年5月期(16年度)、8カ月の変則決算だった影響で見かけ上は大幅な減収となっているが、12カ月決算に引き直すと実質この期に業務収入で新日本を上回り、トップに立ったと見ていい。

     業務収入の内訳では、直近で監査業務比率が最も高いのは新日本で85%、以下、あずさが77%、トーマツが71%だが、あらたは監査業務と非監査業務がほぼ5割ずつと、非監査業務比率が他の3法人に比べて高い。

     社員・職員の資格別構成比も業務収入の構成比にパラレルにリンクし、あらたは社員・職員全体の5割が公認会計士及び公認会計士試験合格者以外だ(図2)。

    監査先を大企業に集約

     一方、クライアント1社当たりの業務収入を見ると、順位はガラリと入れ替わる。直近ではトップはあらた、2位があずさ、トーマツは3位で新日本は4位だ(図3)。

     躍進著しいのはトーマツだ。かつては最下位だったが、8カ月決算となった17年5月期(16年度)の実績を12カ月換算すると、この期には新日本、あずさを抜いて2位に浮上していた計算になる。中でも監査業務収入の伸びは著しい(図4)。上場会社の監査では、小規模な企業の監査を降り、大企業にシフトする動きを4大監査法人の中で最も積極的に推し進めているとされるうわさを裏付ける形になった。

     営業利益は各法人ともに期ごとに変動が激しい。直近ではあらた、あずさ、新日本、トーマツの順だが、一つ前の期は新日本、トーマツ、あずさ、あらたの順だ(図5)。

     そもそも公益性が高く、かつ労働集約型で、社員賞与など一般事業会社では営業経費には計上しない費用も業務費用に計上するため、営業利益は低水準になりがちではある。だが、それを差し引いても低い。

     4法人の営業利益を社員・職員1人当たりで見ると、直近ではトーマツが4万円、新日本が7万円、あずさが29万円、あらたが88万円という驚くべき結果になった(図6)。

     社員・職員1人が稼ぐ業務収入がそもそも年間1500万~1800万円程度。一方、人件費(法定福利費など含む)は1人1000万円前後かかっている(図7)。1000万円かかる人材を使って数万円しか営業利益を稼いでいないのである。ちなみに、高収益企業の代表格であるキーエンスの従業員1人当たりの営業利益は年間4000万円である。

     また、新日本はここ数年、他の3法人に比べて税負担が重く、純益水準が3億円前後にとどまるなど、他の3法人に比べて著しく低い状況が続いている。16年6月期(15年度)は東芝問題に係る課徴金21億円、17年6月期(16年度)と18年6月期(17年度)は10億円前後の構造改革費用を特損計上しているが、これらはいずれも有税なので、法人税等と法人税等調整を合計した税負担率は、8割前後と高水準となり、純益水準が低い原因になった。19年6月期(18年度)は過去の純益水準の低さゆえに、今度は将来の税金還付を見込んで過去に計上した「繰り延べ税金資産」を16億円取り崩し、またもや税負担率は8割を超えた。

    AI投資で業務費増加

     トーマツ以外の3法人は無借金、トーマツも実質無借金ではあるが、総じて内部留保は潤沢とは言い難い。あらたは月商3カ月分、あずさは同2・8カ月分、トーマツは同2・5カ月分、新日本は同1・7カ月分しかない。

     4大監査法人の業務費用はここ数年、着実に増加している。5年間であずさは1・25倍、トーマツは1・28倍、あらたに至っては1・88倍である。新日本だけは1・02倍とほぼ横ばいだが、18年6月にIT監査部門を切り離し、別のグループ会社に統合したことで、監査法人単体としては負担が減っているように見えるだけだ。

     4大監査法人はいずれも、世界4大会計事務所の日本におけるフランチャイジーであり、フランチャイズ本部がグローバルレベルで実施している、莫大(ばくだい)な額のデジタル投資の一部を分担する立場にある。

     日本に振り分けられた分担金は、監査法人だけでなくグループ各社に振り分けられる分、1社当たりの負担は薄まってみえる。デジタル投資にかかった費用は、開示されている業務費用の明細上「IT・通信費」だけでなく、あらゆる科目に分散するので、全ての科目が毎年ほんの少しずつ増えているように見えてしまうのだ。

     デジタル投資に必要な費用は今後、増大の一途をたどることは間違いない。今のような利益水準で果たして負担に耐えられるのだろうか。

     監査問題に詳しい青山学院大学の八田進二名誉教授は、「将来を見据えた人材投資とAI投資が可能になるよう、監査責任の重さに見合った形での監査報酬のアップが不可欠」だと指摘している。

     増大する費用の価格転嫁をクライアントに受け入れてもらうには、なおいっそうのクオリティー向上と、監査法人自身の業務効率化が必須条件であることは間違いない。

    (伊藤歩・ジャーナリスト)

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