資源・エネルギー

水道老朽化で値上げラッシュ 「現場無視」改正法の弊害も=吉村和就

日本は「100年水道」を維持できるか(大阪市水道局庭窪浄水場)
日本は「100年水道」を維持できるか(大阪市水道局庭窪浄水場)

 2019年4月に料金の改定を申請した全国51水道事業体のうち37自治体で値上げが承認された。続々と全国で値上げが進行している。例えば埼玉県熊谷市(給水人口19万2450人、16年度)では、19年ぶりに、今年の4月1日から平均19・5%値上げした。

 その理由は人口減少による料金収入の減少、老朽化施設の増加(老朽化施設を計画的に更新するためには、1年当たり現在の2倍、約30億円の費用が必要)である。京都府宮津市(給水人口1万8000人)では、9年ぶりに33%の料金値上げを決めた。一般的な4人家族の使用量(20立方メートル)で月額851円の値上げとなるが、もし水道料金を改定しない場合は約10年後の29年度までに累積赤字が13億3500万円に達する。

料金格差は全国で8倍

 全国の水道事業体の52%は、原価割れ(給水販売価格が製造原価より低い)、つまり赤字体質である(厚生労働省「水道ビジョン」)。特に水道管の耐用年数(寿命)は約40年とされているが、既に日本全体で15%の配管(延べ長さ10万キロメートル、地球2周半分)が老朽化を迎えている。

 実際、年間2万件の漏水事故が発生している。老朽管を更新する費用は、1キロメートル当たり約1億円が必要だ。現在の配管の更新率は全国平均0・76%で、130年もかかる計算となる。水道は総括原価方式(全ての費用を水道料金で賄う)なので、値上げをしなければ水道事業が成り立たないのだ。

 人口減少による水道料金の減収を具体的にみてみよう。過去10年間で2000億円の減収、つまり毎年200億円ずつ収入が減少している。さらに製造工場の海外移転や節水機器の普及、さらに地下水ビジネス(大口需要者のショッピングモール、大病院、大学などが自前で水供給)の台頭が水道料金の減収に拍車をかけている。

(出所)日本水道協会の資料を基に編集部作成
(出所)日本水道協会の資料を基に編集部作成

 実際、水道インフラ維持には、今の水道料金は安すぎる(図)。水の安全保障戦略機構と新日本有限責任監査法人が18年に公表した報告書「人口減少時代の水道料金はどうなるのか?」では、これからの日本の水道を維持してゆく場合、(1)40年度までに、全国の水道事業体のおよそ90%が水道料金の値上げが必要、(2)値上げ率は全国平均で36%、中には水道料金が5倍になる自治体もある──と指摘している。

 給水人口が少ない自治体ほど水道料金は高くなる傾向がある。他の公共料金、電気、ガス、通信費などと比べた場合、例えばスマートフォンの月額利用料は1人当たり1万円以上に上るが、水道は全国平均3241円(3~4人家族)で、1人当たり月額約1000円である。

 日本水道協会の調査(19年4月1日)によると、家事用20立方メートル使用(3~4人家族)の場合、月額の最高額は北海道夕張市の6841円、最低は兵庫県赤穂市の853円と8倍の格差がある。全国平均料金3241円と比較しても2・1倍の開きがある。この開きは、水質の違い、地域特性、給水人口の違いである。水質が良く、平坦(へいたん)で、人口密度の高い地域が安価な水道料金となっている。

 これら課題解決に向け、改正水道法が昨年10月に施行された。中身は「責任の明確化、資産管理(データ化)、広域連携、官民連携」などである。

 水道事業は、自治体ごとに、自分の行政区域内で行うことが原則であるが、これでは生き残れない。近接した自治体同士で連携し、給水人口を増やし経営効率を上げなければならない。

 広域連携では、岩手中部水道企業団(北上市、花巻市、紫波町を合わせての給水人口、約22万人)の水道事業の広域統合化や群馬東部水道企業団の官民連携事業(官民出資会社を作り水道事業を効率的に行う、給水人口約45万人)、香川県広域水道企業団(県内8市8町の統合、給水人口約96万人)、かずさ水道広域連合企業団(千葉県内、君津地区の用水供給事業と受水事業者(4市、給水人口は32万人)が統合し経営効率を上げている。

 官民連携では、「宮城型コンセッション方式」が注目されている。これは宮城県が行っている上水道、下水道、工業用水の3事業の経営権を民間に売却し、民間ノウハウでコストを削減し、将来的な水道料金の値上げを抑える試みであり、22年度から導入する。

 民間との契約期間は20年間で、県の試算ではコンセッション方式の導入で247億円を削減できるとみている。欧州でよく採用されているコンセッション方式であるが、災害大国の日本では、その災害対策をどうするのか? 民間にその責をすべて負わせると水道料金が、とてつもなく高額になる恐れがあり、慎重に取り組むことが必要だ。

 民間出資が主体でユニークなのは「水みらい広島」である。水処理大手の水ing(東京都港区)が65%出資、広島県が35%出資で12年の設立。地元密着型の水道事業を展開し、「地域とともに、水のみらいを創造する」が経営理念で、従業員約160人の62%は地元採用で、ベテランから若手への技術継承を積極的に行っている。水道技術は経験工学ともいわれ、ベテランの経験・ノウハウを若手に継承することは、極めて重要である。「水みらい広島」は、現在広島県内の呉、尾道、江田島、廿日市市の水道施設の維持管理も受託している。

職員4人以下が多数

 ただ、水道法は改正されたものの現場は対応できていないことが問題となっている。

 全国1381事業体のうち7割が給水人口5万人以下で、平均水道職員は12人、最も事業体数の多い給水人口1・5万人未満の職員数は、わずか4人(16年度、厚労省調べ)、これでは日々の仕事に忙殺され、水道の将来を考える時間も予算もない現状である。実に給水人口1万人以下の自治体の水道会計は22%が赤字(公営企業決算状況調査)である。人も金もなく、コンサル費用を申請する書類すら作成できない状況である。

 日本の水道をこの先100年にわたって永続的に維持していくには、(1)安すぎる水道料金の値上げ、(2)自治体同士の広域連携、統合化の推進、(3)官民連携の促進、(4)人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)を用いた経営効率化、(5)地方銀行と協力した水道債の発行──が必要だ。国民の生命に直結した「100年水道」をどう持続可能にするのか、知恵と行動が求められている。

(吉村和就・グローバルウォータ・ジャパン代表)

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