経済・企業学者が斬る・視点争点

「現金一律給付」が無視したもの=茂住政一郎

    茂住政一郎 横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授
    茂住政一郎 横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授

     昨今のような経済的混乱が生じた時、今日の政府には何らかの経済政策を行うことが求められる。その政策手段は、何らかの理論から引き出されたアイデアに基づいて考案される。そのような経済理論の一つに、いわゆる「ケインズ理論」がある。

     今日、一般的な「ケインズ理論」の下での財政政策の理解では、政府支出拡大と減税は国民所得を引き上げ、政府支出抑制と増税は景気を抑制する。米国において定着した以上の発想を、米国の経済学者ハーバート・スタインは、後述のように「飼い慣らされたケインズ主義」と呼んだ。本稿では、ケインズが「飼い慣らされた」歴史とその意味に光を当てつつ、今回の特別定額給付金(一律10万円の現金給付)を巡る議論のはらむ問題を検討したい。

     ケインズ本人は、失業や所得分配などの英国の状況を観察した上で、公債発行を通じた追加的政府支出、それに伴う国民所得増加を前提とした減税、金融緩和という景気後退期における対策の一方、負担の公平な累進所得税制や政府の給付を通じた公平な所得分配、及び中長期的な予算均衡を重視していた。

     ケインズの理論を米国の財政政策論に持ち込んだアルヴィン・ハンセンは、公共投資支出の操作による景気安定の前提として、(1)低所得層向け再分配と、教育、公衆衛生、住宅など、当時の米国で不足していた公共サービスの充実、(2)負担の公平な累進所得税制の構築──を重視していた。彼らにとって、意図的な公債支出や減税はあくまで不況期の対策だった。

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