「神経」のような繊細さが描く「草の刃」の短編集=楊逸
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春らんまん。花草がいくらきれいに咲き誇っていても、例年のように楽しめないのはつらい。コロナ疲れで、何をする気も起きないが……。
しかし時間は決して経過することを怠ったりしてくれない。まるで「破壊を糧に蔓延(はびこ)る、無数の草の刃」のようではないか。
『草地は緑に輝いて』(アンナ・カヴァン著、安野玲訳、文遊社、2500円)のそんな帯文を目にしてふと思うのだった。さっそく「本邦初訳」のこの「傑作短編集」を手にとって読み始める。
「塔の形は澄んだ光のなかでどれも硬く鋭かった。巨大な建造物のひとつひとつが、きれいに晴れわたった空を背景に艶やかな金属の氷めいた鋭さで屹立している。おまけに、とてつもない数の透けるように白っぽい垂直な塔は恐ろしいほどに凄みがあって、容赦ない強烈な日射しのなかで、この世のものとも思えない神秘的な雰囲気を醸し出していた」
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