教養・歴史書評

中国 終わることなき民族性論=辻康吾

 日本について言えば新渡戸稲造の『武士道』やルース・ベネディクトの『菊と刀』など、中国についてはアーサー・スミスの『中国人的性格』や、林語堂の『我国土・我国民』などの古典的名著があるように国民性論や民族性論は世界中の出版界において常に一定の位置を占めている。たまたま手にした張亜松ら主編の『東方人性格地図』(2005年、山東画報出版社)もその一冊である。

 同書は中国人、日本人、韓国人、インド人など東方民族の民族性に関する中国内外の報道、評論、随筆などから百数十もの引用をまとめたものである。それぞれの指摘に思い当たるものもあるし、誤解ではないかと思われるものもあるが、全体としてはそれぞれの民族の「傾向」のようなものが見えてくる。その一つとして引用されているものとして金文学の『中国人、日本人、韓国人』(02年、山東人民出版社)がある。

 著者は瀋陽生まれの朝鮮族中国人で日本に留学、帰化しており、放送大学客員教授を務め、日本語の著書も多い。中日韓三国の比較論を書くには適役かもしれない。同書の引用部分をさらに要約するなら著者は中日韓三民族の特徴を「義」「理」「情」の三つの漢字で示している。中国人の「義」は家族から始まり、宗族、同郷、同民族へと広がる連帯感である。日本人の「理」は秩序を構成する線を守ることにある。韓国人の「情」は家族を中心に情念が全てに優先する。

 中韓から見ると日本の「理」は非人間的で冷酷とさえ思われ、日本から見ると中国の「義」は建前論に見えるし、韓国の「情」は場合によっては契約さえ守る必要がない無秩序と思われる。興味深いのは著者によれば中国の「義」と韓国の「情」は家族を原点とするもので、その範囲が違うだけだという指摘である。このあたりに中韓両国と日本の間のさまざまな心理的齟齬(そご)の根源があるのかもしれない。

 ともあれ民族性論は大変面白いのだが、もともとあいまいな「民族」という概念の上に成立しているため、そこから特定の民族はもちろん、その個々の人物の考えや行動を理解することはできない。私自身はいつも、諸民族間の相違は、個々の民族内の相違よりも小さいと考えている。

(辻康吾・元獨協大学教授)


 この欄は「永江朗の出版業界事情」と隔週で掲載します。

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