教養・歴史書評

コロナが問う出版社のITセンス=永江朗

 新型コロナウイルス感染症の勢いは衰える気配がない。収束はかなり先になりそうだ。出版社もさまざまな対応を迫られている。

 最も多く見られるのは、一部をリモートワーク(在宅勤務)にして、出社する社員を減らすパターン。交代で週に2~3日だけ出社するという会社が多い。だが、大胆にも全従業員がリモートワークという出版社もある。ベストセラー『超訳 ニーチェの言葉』などで知られるディスカヴァー・トゥエンティワンがそうだ。

 同社の発表によると、リモートワーク導入時の3月に行った社内アンケートでは、出社しないとできない仕事があると答えた社員が半数。しかし、実施から2カ月あまりたった6月のアンケートでは、68%の社員がリモートワーク継続を希望したという。同社は必要なスタッフにノートパソコンやプリンター複合機を支給している。

 出版社の日常業務の一つに書店営業がある。営業担当者が書店を訪問して新刊情報の提供や受注をするだけでなく、既刊書のメンテナンスにも目を配る。売れたあと補充されていない本や、状態の悪い本をチェックする。しかし、感染症への不安がある中、訪問はできるだけ避けたいと出版社も書店も思っている。

 創元推理文庫で知られる東京創元社は「画像で棚メンテナンスサービス」を始めた。営業部員が書店に出向くのではなく、書店が書棚の写真や在庫データを同社に送り、欠品の調査や在庫の状態を確認して補充の提案をするというもの。当初は7月10日までの予定だったが、好評につき8月17日まで期間を延長した。

 著者によるトークイベントは、出版物のプロモーション活動として重視されてきたが、これも開催が難しい。“ひとり出版社”の夕(せき)書房は、書籍『彼岸の図書館』の「増刷記念ツアー」と銘打って、著者・青木真兵氏の有料オンライン・トークイベントをビデオ会議システムZoomを使って開催している。

 今のところコロナ対応はコンピューターとネットを駆使する以外に有効な手立てが見つからない。ITの取り扱い技能とセンスが出版社の命運を握りつつある。デジタルにうとい人へのフォローが課題だ。


 この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。

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