美術 1894 Visions ルドン、ロートレック展=石川健次
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草創期の洋画家の苦闘はじめ多くの美術的画期に注目の展示
まずは図版を──。あっ、題名は見ないで。どのような作品と思われるだろうか。大きな亀の背に凛々(りり)しい姿で立つ青年は、大切そうに両手で箱を抱えている。そのすぐ後ろ、子どもの姿をした従者が持っているのは釣り竿だ。さらに目を後方へ向けると、白いドレスに身を包んだ美貌の女性が……。
おとぎ話の「浦島太郎」が主題なのは一目瞭然だろう。パリに留学して本格的に油彩画を学んだ近代洋画草創期の画家、山本芳翠(ほうすい)(1850〜1906)の《浦島》だ。長く中国美術を範としてきた日本の美術は、近代に入って西洋へ目を転じた。洋画、つまり油彩画の技術を習得した日本の洋画家が次に直面したのは、いったい何を、どう描くのか? 言い換えれば西洋のまねではない、独自の油彩画の創造だった。《浦島》は…
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週刊エコノミスト
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