教養・歴史

人種、所得、教育から倫理観まで “分断だらけ”の米国は修復困難=中岡望

    トランプ支持者は、バイデン氏の勝利に反対するデモを繰り広げた(Bloomberg)
    トランプ支持者は、バイデン氏の勝利に反対するデモを繰り広げた(Bloomberg)

     米大統領選挙で勝利したバイデン前副大統領は「勝利宣言」の中で次のように述べている。「私は分断ではなく統合を目指す大統領になることを誓う、赤い州と青い州を区別するのではなく、合衆国の大統領になる」。さらに「私は米国の心を回復し、国の中核である中産階級を再構築し、米国を世界で尊敬される国にするために大統領を目指してきた」と付け加えた。

     だが、選挙結果は、米国の分断の深刻さを示すものであった。民主党は大統領選では勝利したが、下院選では議席を失い、上院選では円滑な政権運営に必要な過半数を確保できなかった。さらに州知事選や州議会選挙でも共和党の後塵(こうじん)を拝した。

     バイデン氏は、黒人票、ヒスパニック票、女性票に加え、初めて投票する有権者の支持を得たのが勝因であった。郵便投票による投票率上昇に助けられた。トランプ大統領は前回選挙を上回る7300万票以上を獲得(11月16日時点)。連邦議会では、共和党は徹底抗戦の構えだ。

     米国の分断は癒やしがたい水準にまできている。リベラル対保守という「イデオロギーの分断」をはじめに、「人種の分断」「地域の分断」「社会倫理」など、さまざまな分断が重なり合っている。

    細る中産階級

     最大の分断は人種による分断である。共和党は「白人の党」で、トランプ氏が白人至上主義をあおり、黒人差別への抗議活動を暴徒と批判しても、白人層はトランプ氏を支持し続けた。

     白人層の対応の背後に、白人人口の相対的低下によって非白人国家になることへの懸念がある。米国勢調査局が2015年に行った研究では、白人比率は60年に43・6%にまで低下するという。非白人の人口比が50%を超え、ヒスパニック系は28・6%に上昇する。

     白人のトランプ大統領支持は、出口調査にはっきり表れている。『ニューヨーク・タイムズ』紙の出口調査では、白人の58%がトランプ氏に投票。バイデン氏は41%と、その差は10ポイントある。他方、黒人の87%はバイデン前副大統領に投票し、トランプ氏には12%に過ぎなかった。ヒスパニック系はバイデン氏支持が65%。トランプ氏支持が32%であった。

     出口調査の「人種差別」に関する問いに対して、バイデン氏の支持者の82%は「最も重要な問題」と答えているが、トランプ氏の支持者は1割に過ぎない。「まったく問題ではない」と答えたのは、バイデン氏支持者の8%に対してトランプ氏支持者の9割であった。

     所得格差による分断も深刻である。1981年に保守主義を掲げるレーガン政権が誕生した。レーガン大統領が掲げる新自由主義政策は、社会の深刻な所得格差を生み出した。富裕層の所得減税と法人税率の引き下げが行われた。労働市場の規制緩和も進み、組合の影響力が急速に低下し、賃金上昇が抑えられ、非正規労働者が急増する事態が起こった。

     その結果、富裕層と中産階級や低所得層の所得格差が拡大した。総所得に占める中産階級の所得の比率は70年には62%だったが、18年には43%にまで低下している。

     保有純資産で見てみると、その差はさらに深刻である。ニューヨーク連邦準備銀行の調査では、上位1%の富裕家族が保有する純資産は32兆2000億ドルで、比率は30・4%である。上位10%の比率は88%を超える。所得の少ない下から50%の家計が保有する純資産は全体の1・9%に過ぎない。

     地域による分断も深刻である。出口調査によると、バイデン氏は東部で58%、西部で57%獲得している。トランプ氏は内陸の中西部で51%、南部で53%を獲得している。地域を都市、郊外、地方で分けてみると、都市の非白人の比率は56%と過半数を超えている。郊外は32%、地方は21%と少ない。

     郊外と地方は白人社会である。政党支持率で見ると、都市では民主60%対共和38%で圧倒的に民主党の地盤となっている。郊外では、両党の支持率は拮抗(きっこう)している。地方では逆転し、民主42%対共和57%で、共和党の地盤になっている。地域による所得格差は大きい。

     教育面でも分断が進んでいる。学歴による政党支持の違いが見られる。出口調査によると、大学卒業以上の白人の51%がバイデン氏に投票している。他方、高卒の白人の67%がトランプ氏に投票している。トランプ氏支持基盤の一つが白人労働者であるが、それは出口調査で裏付けられている。

    性的少数者は反トランプ

     米国社会を分断する最も深刻な要因は社会倫理観の違いである。特に「中絶」「同性婚」「麻薬」といった問題では、越えがたい分断が存在している。

     こうした社会倫理を巡って「文化戦争」が展開されている。出口調査にも端的に表れている。例えば「中絶」に関して、民主党支持者の74%は「合法」であると答えている。共和党支持者は24%に過ぎない。逆に「違法」と答えたのは共和党支持者の76%である。共和党支持者は、73年に女性の中絶権を認めた最高裁判決を覆すことを主張している。

    「同性婚」も世論が大きく割れる問題である。15年6月の最高裁判決で同性婚は合憲であるという判断が下された。この判決を受け、世論の動きも変わってきた。同性婚に対する党派別の対応を見ると、民主党の83%が支持、共和党の49%が不支持であった。また、大統領選挙の投票者の7%が「LGBT」と呼ばれる人たちを含む性的少数者、その中の64%がバイデン氏、27%がトランプ氏に投票している。

     保守的な社会倫理を主張するのはキリスト教原理主義者の福音派(エバンジェリカル)である。福音派はトランプ氏の大きな支持基盤である。出口調査では、投票者の28%が福音派と回答しており、そのうちの76%がトランプ氏に投票している。福音派の指導者たちは、キリスト教ナショナリズムで米国を統治する夢を見ている。

     このように米国は、多様な側面で二極化が進んでしまった。相互不信と憎悪を持って敵対するグループは簡単には融和できない。バイデン氏が「分裂した国民を統一する」と訴えても、保守派の人々の耳には届かないだろう。

    (中岡望・ジャーナリスト)

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