教養・歴史書評

ユートピアを目指した太平天国の理想と現実=加藤徹

 菊池秀明『太平天国──皇帝なき中国の挫折』(岩波新書、860円)は、熱い本だ。

 清の末、中国最南端の広東に洪秀全という知識人がいた。彼は科挙を受験して失敗した後、不思議な夢を見た。天界に昇り、金髪で黒服の老人から「この世を救え」と命じられる夢だった。洪秀全は後にキリスト教に触れ、この老人が唯一神ヤハウエであり、自分はイエス・キリストの弟だと確信した。彼は1850年12月、清朝を打倒して地上にユートピアを作るため、挙兵した。太平天国の始まりである。

 清末の社会は腐敗し、格差が広がり、人々の不満が高まっていた。中国最南端から始まった太平天国は、不満分子を吸収し、清朝の軍隊を打ち破り、急速に勢力を広げた。53年には南京を占領して「天京(てんけい)」と改名。洪秀全は、始皇帝から2000年以上続いた皇帝制と決別した。彼は、真の神ヤハウエだけが「上帝」で、地上の支配者が皇帝を名乗るのは不遜と主張。太平天国の誕生に、西洋列強のキリスト教国は興奮した。

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