インフレに苦しんだ元朝の教訓=市岡繁男
有料記事
世界的な通貨膨張策の帰結を考える上で、湯浅赳男著『文明の「血液」─貨幣から見た世界史』(新評論)に記された中国・元朝の事例は興味深い。
宋代に誕生した紙幣制度が普及したのは13世紀前半のオゴタイ・ハンの治世下だった。インフレで滅亡した前王朝の轍(てつ)を踏まないよう、紙幣発行に上限を設け、銀との兌換(だかん)も保証した。紙幣の作成コストは低く、政府の利得が大きかった半面、いったんインフレに陥れば体制危機となる危険があったからだ。
1260年に即位したフビライ・ハンは、紙幣の使用を法制化し、納税も紙幣で行わせた。だが、その後は2度の元寇(げんこう)などで戦費がかさみ、1274年からの13年間で通貨発行量は20倍に増加、銀との兌換も取りやめた。このためインフレが進み、旧紙幣の5分の1しか価値がない新紙幣を3度も発行。最初の元寇後の80年間で物価は125倍になった。その後は紙幣の通用を強制できなくなり、元朝自体も1368年に滅…
残り174文字(全文591文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める