成長分野1 パワー半導体 2030年に4兆円市場 東芝、富士電機が巨額投資=和島英樹
電気自動車(EV)シフトで高成長が期待できるパワー半導体は、電力(直流と交流)や電圧の変換などに使われる。高い電圧、大きな電流を扱っても壊れない構造を持っており、EV向けには、主にモーターの制御が用途として挙げられる。モーターを低速から高速まで高精度で回すことでEVの性能を上げるだけでなく、効率よく動かすことで省エネ・省電力化にもつながる。
富士経済の予測では、世界のパワー半導体市場は2019年の2兆9141億円に対し、20年以降は、自動車、電装分野と鉄道車両分野向けを中心に需要が拡大し、30年には4兆2652億円に達する(図)。また、仏ヨール・ディベロプメントの調査によれば、19年のパワー半導体の世界売上高は独インフィニオン・テクノロジーズが約35億ドル(約3600億円)と圧倒的で、2位は米オン・セミコンダクターで約20億ドルとなっている。上位は海外企業だが、トップ10まで眺めてみると、日本企業が5社入っている。上位から順に、三菱電機(5位)、ローム(6位)、東芝(7位)、ルネサスエレクトロニクス(8位)、富士電機(9位)で、売上高は約5億~10億ドル程度。半導体ではほぼ淘汰(とうた)された日本だが、パワー半導体での存在感は大きい。
コンデンサーで強い村田
現在のパワー半導体の主力はSi(シリコン)ウエハーを用いたものだが、EV向けとして、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などのウエハー材料を使った次世代のパワー半導体の開発が進んでいる。日本企業は、特に有望なSiCに強みがあるとされており、30年の世界市場規模は、2009億円に達すると予測されている。またパワー半導体はきめ細かい製造技術装置も必要不可欠で、この分野では東京エレクトロンやディスコ、アドバンテストなどが高いシェアを有する。
企業側も、ここにきて車載用パワー半導体の増産に相次いで乗り出してきた。東芝はこれまでの送配電設備向けの電力変換装置用途に加えて、EV向け需要を開拓。23年度までに約800億円を投じて、石川県の工場で生産能力を3割増やす。富士電機も23年度までに国内外で1200億円を投資し、自動車向けパワー半導体の売上高を現在の35%から、将来的に50%まで高めるとしている。このほか、三菱電機もパワー半導体の一種である「IGBTモジュール」の増産体制を整える。
パワー半導体以外では、積層セラミックコンデンサー(MLCC)も注目分野の一つだ。EVやハイブリッド車(HV)に組み込む電子部品が高性能化すると、電子回路に用いられるコンデンサーの数が急増する。中でも耐熱性の高いMLCCの需要が増えると見られているが、村田製作所が世界シェアでトップ、太陽誘電やTDKも上位に位置している。
(和島英樹・経済ジャーナリスト)