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教養・歴史 書評

人にとって部屋とは何か アナール派重鎮探求の書=本村凌二

 フランスでホテルに泊まると、部屋(chambre)を指定される。この言葉は「個人用の部屋」を意味し、とくに「寝室」を指すらしい。そこから、今回紹介する本のような邦語タイトルになる。

 アナール派といえば、20世紀後半の歴史学をけん引する大きな起動力の一つであった。人間の生活と社会に目をむけ、とくに心性(マンタリテ)に焦点を当てながら歴史の深層に迫る。その重鎮の一人であるミシェル・ペロー『寝室の歴史』(藤原書店、4200円)もまた斬新な視角から、最も親密な人間的空間の出来事を掘りおこす。まず、詩情あふれる著者の肉声に耳を傾けておこう。

「多くの道が部屋に通じている││休息、睡眠、誕生、欲望、恋愛、瞑想、読書、エクリチュール、自己の探求、神、隠遁││望んだものであれ、耐え忍ぶものであれ││、病気、死。出産から臨終まで、部屋は実存の舞台、少なくとも、その楽屋である。仮面を外し、衣装を脱ぎ、感動や、悲嘆や喜びに身をゆだねる楽屋。人はそこで人生の半分近くを過ごす、官能的で、和らいだ半分を。不眠や、取り留めもない思索や、夢想の夜の部分を。…

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